オランダのラボバンクとマイクロソフトは 2021 年に、戦略的パートナシップを締結し炭素隔離プロジェクトについて協業することを発表しました。

このプロジェクトは“Acorn (Agroforestry Carbon removal units for the Organic Restoration of Nature)”と呼ばれており、将来的に約 40 億本の木を植え、150 万トン以上の CO2 を削減する目標を掲げる非常に野心的なプロジェクトです。

具体的には、アグロフォレストリー (農家が農作物や家畜のために使っている土地に木を植え森林と両立させること) によって大気中の炭素を吸収し、カーボンクレジットを生み出す取組みです。それによって、土地の質が向上し、農家の収入も増え生物多様性も回復することが期待されています。

カーボン隔離市場の構成図

以前の記事では、Acorn の概要をお伝えしました。本記事ではその仕組みについて少し詳しく見てみたいと思います。

CO2 を吸収する木を植林し CO2 を固定して収益を得る

ラボバンクは 2 年前にこのプログラムを開始しましたが、以来、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの小規模農家が、自分たちの土地に新しい樹木や作物を植え始めています。2022 年 4 月時点で、10 か国で 8,000 以上の農家が参加しています。日照りや干ばつなどの影響を受けている農家の人たちは気候変動がもたらす悪影響に気づいており、Acorn の紹介を受けこの問題に積極的に関わろうという人々が増えているといいます。

農地にどんな木を植えるかは、農家によって異なります。例えば、コーヒー農家の場合はシェードツリー (コーヒーの木を直射日光から守るために日傘の役割をさせる木) を植え、トウモロコシ農家の場合はアボカドやマンゴーの木などを植えたりします。アボカドやマンゴーの木は成長すると実がなるため、農家はそれを売って新たな収入源とすることもできます。

植樹していから最初の数年間は、新しい木に実がなることはありませんが、CO2を吸収するという大切な役割を果たしていきます。衛星やドローンを用いたリモートセンシングでどれだけの CO2 が固定されたかを計算し、CRU (Carbon Removal Units) と呼ばれる単位に変換します (1CRU は 1,000 キログラムの CO2 固定に相当)。

※CRU は Plan Vivo Foundation の認定を受けたカーボンクレジット

木は成長するに従い、年々 CO2 を固定します。農家は固定した CO2 を CRU に変換し、ラボバンクが運営する市場でオークションにかけることで、毎年収益を手にすることができるのです。

CO2変換で収益を生む仕組みの説明図

出典:Project Acorn 公開資料より抜粋

通常、農家が植樹して固定した CO2 のうち、85% を CRU に変換します。残りの 15% は、何かあったときのバッファとして使われます。例えば、火事で木が焼失したり、誤って伐採したりした場合、すでに販売した CRU を「なかったこと」にはできないので、バッファを持たせているというわけです。これは、植樹してから 20 年というモニタリングの期間中続くことになります。

CRU のオークション販売

CRU の最低価格は 20 ユーロとなっており、購入者は 1,000 CRU を 1 単位として購入する必要があります。Acorn は定期的にオークションを開催し、買い手の入札を受けて CRU を販売します。全ての購入希望者が公平な条件で購入できるように、オークションの販売価格は最も高い入札額ではなく、買い手が購入する意思を見せた金額で低いものが採用される仕組みも採用しています。

買い手は入札前に、ポータルを通じて CRU を生成しているプロジェクトの詳細を確認することができます。いつ、どこで、誰が、どのように CO2 を貯めたのかを正確に知ることができるので、自社が入札するにふさわしいかどうかを判断することができます。

Project Acorn ウェブサイトのスクリーンショット

出典:Project Acorn Webサイト

リモートモニタリングによる正確な状況把握

Acorn は農地の選定にも気を使っています。Acorn 自体が小規模農家を支援するプログラムであるため、農地は 10 ヘクタール以下でなければなりません。また、農地がプログラムに参加する前の数年間の間に農地の中で森林伐採が行われていた形跡があれば、その農地はプログラムの対象から外されます。農地を増やすために周辺の森林を伐採していないかどうかも事前にチェックするなど、プログラムが本質的な効果を発揮するための基準および調査に力を入れています。

こうしたことを低コストで実現するには、リモートモニタリングの活用が欠かせません。 Acorn では、Global Forest Watch などのオープンソースのデータセットを使って、プログラムに入る前にその農地が森林に分類されていたかどうかを確認する手法を採用しています。

また Acorn は、衛星画像を用いて客観的に CO2 固定量を測定できる技術を開発しました。CO2 を固定する木の成長と状態を把握するには、リモートセンシングの技術を用います。リモートセンシングとは、離れた場所から地表をスキャンし、センサーで情報を取得する技術のことです。センサーはドローンや飛行機、人工衛星などに搭載され、地球が反射したり放射したりする光をとらえて動作します。

例えば、LiDAR (測定対象物を 3 次元で表現するセンサー) を搭載した航空機を農地の上空を飛行させ、農地のデジタルツインを作成します。このデータと実地で測定したデータを掛け合わせることでより精緻に農地を把握することができるようになります。

Acorn では、衛星データも活用しています。主なデータ源は、欧州宇宙機関が運用する衛星「Sentinel-2a」と「Sentinel-b」です。さらに、他の衛星データ、例えば衛星搭載LiDAR (GEDI) やレーダーデータ (Sentinel-1) と組み合わせることで、世界中のさまざまな場所でバイオマスを正確かつ効率的に推定できるようになります。

Acorn は収集したこれらのデータをリモートセンシングのパートナー企業 (Satelligence や Space 4 Good など) に渡して分析を依頼し、最終的に固定された CO2 の量を算出することになります。

パートナー企業による分析の説明図

出典:Project Acorn公開資料より抜粋

Acorn は今後、木だけでなく土壌に蓄えられた CO2 についてもモニタリングして収益化できるように技術開発を行っていくことを表明しています。


Acorn のプロジェクトはまだ始まったばかりです。非常に壮大な目標を掲げている同プロジェクトですが、単体の銀行が行っているサステナビリティに関連する事業としてはかなり規模の大きなものとなっています。また、CO2 固定と小規模農家の支援を組合わせるというのは非常にユニークで、歴史的に農業に深い関りを持つラボバンクならではのプロジェクトであるともいえます。

マイクロソフトは Acorn の技術パートナーというだけでなく、市場に参加して CRU を購入するなど、Acorn が目指す目標に対して共にコミットして進めています。今後も、手を緩めることなく、ラボバンクが掲げる目標を達成すべく支援を継続していきます。