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マイクロソフト業界別の記事

野外演習で端末を操作する兵士

現在、防衛分野においては、従来の陸・海・空の領域だけではなく、サイバー空間や宇宙空間というドメインまで領域が広がっています。つまり、従来の防衛網だけではなく、デジタル領域における攻撃を防ぐためのデジタルトランスフォーメーション (DX) を進める必要があるのです。リアルタイムでの情報収集と、それをもとにした円滑な指揮命令が重要とされる防衛分野でイノベーションや DX を推進するには、ビッグデータとオープンデータの活用および分析、サイバーセキュリティ、AI、IoT といった技術の、統合的な運用が必要とされます。Microsoft が提供するクラウド テクノロジは、これらの技術を統合する基盤として、もはやなくてはならない存在と言えるでしょう。

細井 智 日本マイクロソフト株式会社 執行役員 副事業本部長 ディフェンス&インテリジェンス戦略担当リード

細井 智
日本マイクロソフト株式会社
執行役員 副事業本部長 ディフェンス&インテリジェンス戦略担当リード

木崎 重雄 キザキ・エンタープライズ株式会社 代表取締役 防衛技術調達コンサルタント

木崎 重雄
キザキ・エンタープライズ株式会社
代表取締役 防衛技術調達コンサルタント

■領域が拡大する防衛分野で力を発揮するクラウド

木崎 今回は、Microsoft が世界各国の防衛分野でどのような活動を行っているのかについて、広くお話を伺っていきたいと思います。私の手元に米国国防総省が調達契約を結んでいる企業のランキング資料があるのですが、Microsoft は近年、年を追うごとに存在感が大きくなってきている印象です。また、Microsoft はここ数年クラウドに注力しており、世界規模でクラウドサービスの実績が広がっています。防衛やインテリジェンスといった分野でも、クラウドサービスの提供が中心となっているのでしょうか?

細井 もともと Microsoft は、自省内で構築・運用 (オンプレミス) するサーバー、PC、それに付帯するサービスといった領域においても、プロダクトの展開だけではなくて、防衛分野でどのように IT が貢献できるかを考え、特に米軍、国防総省にはかなり深く入り込んで、一緒にプロダクトを開発するなどの取り組みを行なってきました。
その背景としては、Windows PC が世界中に展開され始めた 1990 年代後半頃から、米軍をはじめとする各国軍が Windows PC を積極的に導入して、IT を作戦に利用し始めてきたからです。さらにメールシステムや情報共有系のシステム、サーバー系の領域でも Microsoft のサービスが使われるようになり、現在、米国、イギリス、オーストラリアといった国々では、Microsoft のクラウドを、コミュニケーション&コラボレーションのプラットフォームとして使うだけではなく、いわゆるコマンド&コントロールのプラットフォームとしても活用しています。
そのプラットフォームは、時代の流れとともに、クライアント サーバー型の仕組みからクラウドにシフトしてきているわけですが、その理由としては、防衛分野が必要とする技術が、オンプレミスだけで対応できる領域を超えており、コンピューティング パワーを必要とするデータ分析・AI の運用や、サイバー攻撃に対する防御が必要とされるようになってきたからです。

木崎 防衛活動の領域はサイバー空間や宇宙空間に拡大していますが、これらの新しいドメインにおいて、クラウドや AI といった新しい技術の利用を推進するようなファクターは、どのようのものがあるのでしょうか?

細井 まずサイバー空間においては、ネット上でどのようなアクションが行われているのか、それを使ってどのような攻撃をしようとしているのかを分析して対応する必要が出てきます。分析し、対応し、防御する。そしてさらに攻撃への拡大まで見据えていかなければなりません。また宇宙空間においては、人工衛星の情報活用ですね。衛星から送られてくるレーダー画像などのデジタル データを可視化して、どこで、何が、どのように行われているかを知り、それをもとに防衛網を築く。これらの領域で大いにクラウド パワーが発揮されています。

木崎 私も以前、偵察衛星のオペレーション システムに少し触れたことがあって、衛星からの情報に対して、分析側で持っている業務プロセスやシステムと統合するのが難しくて、ノウハウも必要とされるといった課題が当時もあったのですが、クラウド ベースで情報を統合していかないと、もう成り立たない世界になってきているのですね。

細井 そうですね。衛星データを分析する作業は以前からあったとは思いますが、そのデータを陸・海・空、さらにサイバーや宇宙も含めた領域に対してどうマージしていくかが必要になってくるなかで、統合的なデータ基盤として、クラウドの活用が見込まれているのだろうと思います。もうひとつ、陸・海・空の、特に指揮命令系統においてクラウドがどのように活用されているのかというと、例えば、今までも現場に置かれているセンサーの情報を集める作業はやっていたとは思いますが、今は、それが何に活用できるのかというところまでマージしなければいけません。情報を集めて分析し、それをフィードバックするといった部分も、クラウドを活用するメリットに繋がると思います。

■プロダクトベンダーを超えたパートナーとして

木崎 続いての質問ですが、以前ある国を訪問した際に、その国の国防を担当している Microsoft の方から話を聞く機会がありました。そのときに驚いたのは、その国の軍や国防省に対して Microsoft が、私がそれまでイメージしていた製品やサービスのベンダーではなくて、むしろコンサルタントや研究開発 R&D のパートナーに近いような関係を持っていたことなんです。これは、やはり軍の側が Microsoft に期待する役割が変わってきているということなのでしょうか?またそうだとすると、何がきっかけでそういった期待の変化が起こったのでしょうか?

細井 我々としても、以前からプロダクトを提供するだけではなくて、そのプロダクトの活用方法について、特に軍においては、主にセキュリティやデータ活用の領域で対応させていただいていました。そのようななかで、先ほど申し上げた理由により、より一層 IT の活用が望まれるようになってきたわけです。

特に防衛分野においては、私たちが提供しているプロダクトや技術が、セキュリティ面でより一層必要とされることが多くなってきました。前述のサイバー攻撃やマルウェアの領域もそうですし、データを守るための構成を考えるといった場合は、私たちが考えるトラストワーシー・コンピューティング (信頼できるコンピューティング 環境) にも大いに関係してきますから、コンサルだけではなく、「どのように」防御していくべきかを、皆さまと一緒に考えるような感覚です。
流れとしては、まずはセキュリティの観点からスタートし、最新の技術を活用できるところまで持っていく。そして、膨れ上がってくるデータ、すなわちセンシングされたデータや実際の活動内容に関するデータ、指揮命令系統で必要なデータの分析を行い、それをフィードバックしていく。この「セキュリティ」と「分析」というふたつのファクターに関して、我々のテクノロジをどう活用すべきか一緒に考えるといった部分が、単なるプロダクト ベンダーではなく、深く関わるようになった大きな理由なのではないかと思います。

木崎 トラストワーシー・コンピューティングについてもう少しご説明いただけますか?

細井 トラストワーシー・コンピューティングは、あらゆる側面でのセキュア化を目的とする取り組みのことであり、例えば従来の対策では防ぎ切れないサイバー攻撃に、セキュアな環境をプロダクトやサービスとして提供し、より安全に運用できる IT 環境を構築する考え方のことです。セキュアな環境として活用できるプロダクトを提供することは、私たちの基本的な使命なので、防衛分野においても、プロダクトをどのような構成にしてどのように管理すべきなのかといったところまで関わる必要があるわけです。

木崎 クラウドという構成であるかどうか別にしても、本当にセキュアな環境を継続的に運用し続けていこうとすると、もはや個々のハードウェアやそれに搭載するソフトウェアだけで対応できるような世界ではもうなくなっていて、日々いろいろなシステム、ネットワークの構造をファインチューンしながら戦い続けなければいけない世の中になってきていると。そしてそれを軍あるいは政府という激しい攻撃を受ける組織において実現しようと思うと、一緒になって働き続けないと実現できないぐらいの世界にもう世の中になってきているということなのでしょうか?

細井 その通りです。セキュリティ対策は、強固なプロダクトを入れておけばいいという考え方ではもう収まらなくなっています。日々進化し続け、セキュリティの穴を抜けてくる攻撃に対して、当初のプロダクトが何年間も安全性を保つことはできませんから、日々更新する必要があります。ですが、その日々の更新を完全に閉じた世界でやるには、もはや限界があります。クラウドのなかで常に最新の状況を分析して、どういう対策をしなければいけないのか、どういうアップデートをかけなければいけないのかということを判断し、即座に対応できる仕組みが必要になってきているわけです。ですから、軍のネットワークのなかでも、どのように対応していくべきかを日々一緒に考えて更新していかなければいけないのです。

木崎 Microsoft は、米国以外の国でも同様の関係を持っているのですか?

細井 やはり防衛分野に最先端の IT が適用されている米国が中心とはなりますが、イギリス、オーストラリアでも非常に深く関わっています。これらの国々のナレッジやユースケースを、さらにカナダやニュージーランドといった国々の防衛分野に展開していこうという動きもあります。

木崎 クラウドや AI のサービス提供のほかに、Microsoft が米軍と共同で進めているプロジェクトなどはあるのでしょうか?

細井 米軍と深く関わっている点といえば、人材育成ですね。テクノロジのスキルアップ トレーニングやワークショップを実施して、デジタル人材を米軍側に展開し内製化を進めていく活動をしたり、米軍から Microsoft の施設に人材を派遣してもらって、クラウドの活用人材やサイバー セキュリティ分野で活躍できる人材を育成するなどしています。

10 億台以上の Windows PC を展開する Microsoft の強み

では、3 つめの質問です。Microsoft は、民間を含めたあらゆる業種・領域で、クラウド サービスのインフラやサービス構築や、サイバーセキュリティ対策、AI 技術の向上、さらにそれらの活用といったソリューションを世界規模で行っているわけですが、Microsoft の取り組み全体のなかで、防衛という分野は、どのような位置づけがされているものなのでしょうか?

細井 サイバーセキュリティと AI という大きく分けて 2 つの最先端技術があり、それぞれ研究開発が進められていますが、特にサイバーセキュリティに関しては防衛分野と切っても切れない技術だと思っています。Microsoft では、サイバー空間でのトラフィックを監視し、現状の分析と対応を、米国本社にあるサイバー ディフェンス オペレーション センターで行っています。そのトラフィックを分析することによって、現状の把握ということができるわけですが、実はこの領域は、米国政府とも連携しており、私たちの分析や現状の状況を渡しつつ、共同でインターネットの世界を守る動きをしているのです。最先端の技術を使ってサイバー空間でどのように防御するかという部分は、各軍・各国の防衛分野に対しては切っても切れない関係になってきているわけです。また、私たちはこれらの情報をより一般化し、現在 100 の機関に対して同様に情報提供および対応を行う体制も取っています。
一方で、AI についても、実はサイバーセキュリティにも活用されていて、情報分析だけではなく、「振る舞い検知」、すなわちサイバー空間においてどのような行動がなされているかという部分を分析して、それを AI に学習させ、サイバー空間での行動・振る舞いをもとに、どのような攻撃が行われる可能性があるかを、AI で分析し対処できる状態になっています。つまり、なにか新しい動きがサイバー空間上で出てきたときに、AI が察知して、防御することができるのです。これらの対応を人力で対応することは情報量の多さと分析スピードの面でもはや対応不可の状況で、こういうところにコンピューティングパワーと AI の技術が生かされているのです。

木崎 防衛分野は Microsoft のクライアントのなかでもセキュリティにおいて高度な要求水準を持っていて、パートナーとして一緒に取り組むことで最先端のソリューションが生まれているということだと思うのですが、遡って考えると、むしろ民間で新しいサービスの利用が始まって、AI に関しても民間で高度なものができて、それを軍も含めて政府がどれだけ活用できるのかというところが大きなギャップになり、テーマになってきたという経緯もあると思うんです。民間で日進月歩で進んでいくものを軍がフル活用できるようにしていくために、Microsoft がどのように価値提供しているのかを教えていただけますか?

細井 IT ベンダーである Microsoft ができることとして、インターネット空間を安全に保っていくために、全世界に展開している 10 億台以上の Windows PC 等のデバイスの振る舞いを確認し、月間 6,300 億回の認証、180 億回以上のスキャンやメールのやり取りに関するデータを持っている点、月間 4,700 億のトラフィック解析、そして攻撃に対する「脅威の試みブロック」が月間 50 億回。さらに言うと、Microsoft のセキュリティ エンジニアが約 3,500 人従事していて、分析および対応している情報は、ほとんどが契約している国の機関と共有されています。

さらに、Microsoft が年間に投じる 2 兆円以上の研究開発費のうち約 6,000 億円がセキュリティに関する研究開発に投じられ、約 3,000 億円が AI の研究開発に使われています。

 日本の国防予算が 5 兆円あまりということを考えると、Microsoft がいかに大きな金額をセキュリティや分析のために投資しているかわかりますね。

細井 続けて Microsoft が米国で提供しているクラウド プラットフォームについてお話しさせてください。米国国防総省 (US DoD) に提供されているデータ センターは、3 つのクラスに分かれています。まず、未分類 (Unclassified) レベルである Impact Level 2 の場合は Azure の Commercial Cloud を使って対応しています。Impact Level 4、5 といった、機密情報を扱うようなものについては、Azure Government という専用データセンターで運用、Impact Level 6、いわゆるトップ シークレットの領域に関しては、Azure Government Secret で運用しています。Azure Government Top Secret というクラスのデータセンターもあるのですが、これは US DoD ではなく、インテリジェンス期間などで活用するものになります。なお、米国以外の国に関しては、この Azure Government に相当する「ソブリン クラウド」をパートナー企業各社と展開して、提供しています。

マイクロソフトの米国政府におけるプラットフォームの図

木崎 米国で情報管理の構造や、そこで使われる技術、ツールが確立されて、各国がそれを参考にして形づくっていくという流れになっているんですね。ほかに、防衛分野で Microsoft の提供するソリューションを利用している事例はあるのでしょうか?

細井 US DoD では Microsoft Teams を使ったコミュニケーションを始めています。各国の軍とのやり取りでも Teams をベースにしたケースが見られてきていますから、今後は Teams による連携が必須になってくるでしょう。日本においても、米軍との会議で Teams の活用が進むことを見越して、Microsoft にご相談いただいているところです。

木崎 さまざまな面でサポートされているんですね。それでは今回はここまでにさせていただきます。ありがとうございました。