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マイクロソフト業界別の記事

第 7 回 勝 眞一郎氏

企業が成長し続けるには、さながら昆虫が幼虫からサナギになり、成虫へと "変態" するように、絶えずゴールを再定義し、経営資源の組み直しを行うことが肝心だ。

なぜなら、顧客や市場は変化するものである以上、変わり続けられない企業は、求められる価値を提供できなくなるからだ。「デジタル トランスフォーメーション」は、そのための手段にほかならない。目的と手段を正しく捉え、デジタル活用で成果を上げる秘訣とは。

サイバー大学 IT 総合学部
教授
勝 眞一郎氏

プロフィール
1964 年生まれ。鹿児島県奄美大島出身。大学院を卒業後、大手製造業でシステム開発、製品開発手法の改革などを牽引する業務改革リーダーとして活動。途中、米国に 4 年間駐在してシステム部門のトップを勤める。

2007 年 2 月に退職し、同年 4 月から現職。大学ではプロジェクトマネジメントを教えているほか、企業に向けたコンサルティング、製造現場及び間接部門の業務改革や、システム プロジェクトのアドバイスなども多数手がける。総務省 地域情報化アドバイザー。

■企業の成長には継続的なトランスフォーム (変態・変革) が不可欠

そもそも「トランスフォーメーション」という言葉がビジネスの世界に入ってきたのは、15 年ほど前の話です。テレマティクスに見られるような、製品・サービスの領域においてより広範な IT 活用が始まった時代に、「ビジネスの様態がまったく変わってしまう」という状況を表現する言葉として使われるようになりました。

元々は昆虫が幼虫からサナギになり、成虫になっていく過程の "変態" を表す言葉ですが、最近は、ことにデジタル技術が、この変態をビジネスに引き起こすトリガーとなっています。そこで、今はあらゆるビジネス シーンで、デジタル トランスフォーメーションという言い方が大きく広がっているというわけです。

ただ、ここで留意すべきことがあります。実は「トランスフォームすること」自体は、企業にとって何ら特別なことではないということです。トランスフォームすることは、企業が企業であり続けるための必須条件の 1 つ。常に変態を繰り返していかなければ、市場に存在し続けることは不可能なのです。

理由は、ビジネスの仕組みに目を向ければ明らかです。例えば、どんな企業も、顧客に価値を提供することで対価を得て事業活動を行っています。提供する価値が、今日は顧客満足を勝ち得るものだとしても、明日も同様にニーズを満たすものであり続けられるとは限りません。顧客は変化するからです。つまり、価値を提供する相手が常に変化する以上、企業の側も変わり続けていかなければ、必要な利益は得られないのです。

特に現在は、デジタル技術によってマーケットの変化の速度がどんどん上がっています。企業はそれを捉えるために、絶えず自社のゴールを再定義し、経営資源の組み直しを行う必要がある。そうして、常に時勢に応じた価値を提供し、高い顧客満足を得られる仕組みや体制を構築していく必要があります。

このミッションを遂行するには、当然のようにデジタル技術が必須となります。つまり、デジタル トランスフォーメーションとは、それ自体が目的なのではなく、企業活動の本義をまっとうする上でのイネーブラ、手段でしかない。デジタル トランスフォーメーションそのものを自己目的化してしまうことは、企業経営者が最も陥ってはいけない考え方の 1 つといえるでしょう。

■デジタル化しにくい領域にこそ競争力の源泉がある

私はこれまで、かつて自分も働いていた製造業界を中心に、様々な企業におけるトランスフォーメーションの取り組みを見てきました。その中では、一定の「勝ちパターン」のようなものが徐々に見えてきています。

例えば、企業の商品やサービスを生み出すための業務プロセスに変革をもたらす IoT、RPA などの活用。これらの技術は、あらかじめ用途が決まっているものではなく、様々な業務に適用できるために、具体的な活用方法に悩む企業が少なくありません。これを見極めるポイントとなるのは、「その業務が記述可能か、そうでないか」。ここに注目することで、大まかに判断することが可能です。

例えば、デスク ワークでの事務作業や製造現場における工場内作業などは、業務プロセスが定型化されたものが多いため、記述できる業務の一例といえます。これは IoT や RPA によって "自働化" することができるでしょう。自ら動くのではなく、自ら働く "自働化" ですね。

一方、経営トップによる戦略意思決定や、ごく一部の担当者だけが行っている作業などは、プロセスを明確に記述しにくいものであり、単純に IoT や RPA で置き換えることは困難といえます。あるいは、より広く捉えれば「上司がオフィスにいる/デスクに座っている」といったことも、チームの生産性を上げるための上司の仕事の 1 つといえます。これも同様に、デジタルでそのまま置き換えることは簡単ではありません。

この「記述できる/できない」は、「引き継ぎできる/できない」と言い換えてもいいでしょう。誰かに引き継ぎできる業務は、今後は人ではなくデジタルに置き換えればいい。できないものは、そこに業務が存在する必然性や競争力の源泉となるエッセンスがあるのか、あるいは単なるムダなのかを再度精査した上で、必要なアクションを個別に考えればよいのです。

また私の経験では、むしろ「記述できない=安易にデジタル化できない」領域にこそ、その企業のコンピタンスが潜んでいる傾向があると感じます。そのため、そこに経営資源を注ぎ込むことが、競合差別化を図る上でのカギ。デジタル活用と並行して、デジタル化できない領域も積極的にトランスフォームさせる――。その意味では、「ビジネス トランスフォーメーション」と呼ぶ方が、より正確なのだと私は思います。

■自らデジタル活用に挑まないマネージャーは「失格」

こうした取り組みを推進する上では、進める側のマインドの変革も必要です。特にマネジメント層が新たなマインド セットを獲得することは、日本企業の喫緊のミッションになっていると感じます。

これについては、私が過去に勤めていた会社での例を挙げましょう。上司である役員とともに、米国のある企業の視察に出向いたときのことです。先方のオフィスで、ボード メンバーが共有しているという経営レポートを見せてもらったのですが、非常に良くできていたため、私はそれを誰が作ったのか尋ねました。そうしたところ、アテンドをしてくれた先方の役員が「私が作ったものだよ」と言ったのです。

これは、日本では考えられないことでした。というのも、日本では役職が上がれば上がるほど、レポート作成などの業務は部下に任せることが一般的だからです。しかしその企業では、役職が高いほど、社内のデータベースに対するアクセス権限のレベルも上がり、より広範な情報にアクセスできるようになるとのこと。その役員自ら SQL を記述してクエリを作り、様々なデータベースから情報を収集・抽出して分析レポートにまとめ、取締役会への提案に用いていたのです。

この話は 20 年も前のことですが、残念ながら現在の日本企業と比べても、進んでいるといえるのではないでしょうか。ビッグ データという言葉が経営上のキーワードとして喧伝されている割には、マネジメントが率先してデータ分析に取り組む姿は見られない。これが日本企業の現状です。

データ アナリストなどの専門家に頼ることも大事ですが、自らデジタル技術に触れ、活用していくマインドを持たなければ、それらの専門家と、真に経営にコミットした会話を行うことはできません。私は、テクノロジに疎いマネージャーは「失格」の烙印を押される時代が、すぐに来ると考えています。そうなる前に、ぜひこうした意見にも耳を傾けてもらいたいですね。

■自前でやらず、外部と積極的にコラボレートすべき

厳しいことをいいましたが、もちろん成功例も出てきています。最後に、国内企業におけるデジタル トランスフォーメーションの例として、ヤンマー株式会社のケースを紹介しておきましょう。

同社は、自社が提供するトラクターやコンバイン、耕運機などの農業機械製品に各種センサーを搭載して、それらの稼働状況を遠隔でモニタリングする「スマートアシスト」というサービスを展開しています。これにより、異常発生の早期捕捉やトラブル防止に向けた予知保全、機械の盗難対策などを支援し、顧客である農家に対して新しい価値を提供することができています。

実はヤンマーは、私も過去に在籍していた会社なのですが、その当時から先進的なデジタル活用を進める企業でした。このサービスも、ヤンマー自身が長年培ってきた農業機械のコンディション管理にかかわる高度な技術がベースになっていることはいうまでもありません。

ただし、テクノロジが驚異的なスピードで進化する現在、すべての知見や技術を自社で保有しようとするのは得策ではありません。例えば、オーストリアの著名な経済学者 ヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションを「新結合」と表現しました。ここには「一見無関係に見えるモノやコト同士を結びつける」という感覚が、大きく含まれています。つまり企業は、外部パートナーの力を積極的に借り、コラボレーションによってサービスの早期開始、利益創出を目指す。このスタイルを実践することが、ビジネス トランスフォーメーション、そしてイノベーションを可能にする有効な方法だといえるでしょう。事実、ヤンマーもそれによって成功しています。

私自身は大学教授なので、そうした観点でビジネスを捉えられる人材を育てていかなければと感じます。より平たくいえば、「IT が分かるビジネス パーソン」「ビジネスが分かる IT エンジニア」。付け加えるなら、「外部のプロフェッショナルである人材やパートナー企業をどれだけ知っているか」も、その素養の 1 つと定義しても良いかもしれません。

これからの時代、企業の "変態" を支えていくのは、こうした柔軟な感覚を持つ「ヒト」です。既存の考え方に固執せず、自身も変わり続ける意識を持つことで、時流に沿ったビジネス スキルを培って欲しいと思います。

今回の講義のまとめ

  • デジタル トランスフォーメーションを自己目的化するな
  • 経営者は自ら率先してデータ活用に取り組め
  • ビジネスと IT を融合した視点に基づく経営を実践せよ

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