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業界

第四次産業革命による歴史的な変化を日本企業のビジネス チャンスに – デジタル アドバイザリ サービス

第 4 回 デジタル アドバイザリ サービス本部 チーフデジタルアドバイザー 宇都(うつ) 正博

世界中でデジタル技術を駆使した新たなモノづくり・コトづくりが始まっています。アメリカはもちろん、工場のスマート化を推進するドイツ、中国をはじめとした世界各国で、こうした新しい動きが加速しています。この潮流を受け、日本の製造業は、ビジネスモデルや顧客の嗜好の変化、”ディスラプター (破壊者)” の出現など、その変化を意識した取り組みが求められています。マイクロソフトの「デジタル アドバイザリ サービス」では、新たな潮流を日本の製造業のチャンスとするためのアプローチを、強力にサポートしています。

日本マイクロソフト株式会社
エンタープライズ & パートナー サービス統括本部
デジタル アドバイザリ サービス本部
チーフデジタルアドバイザー
宇都 正博

プロフィール
外資系大手 IT ベンダーでの顧客担当システムエンジニアとして製造業や流通業など広範な業種のシステム構築支援に 10 年以上従事したのち、同社のコンサルティング部門に異動。コンサルタントとして、14 年にわたり一貫して大手総合電器メーカーを担当し、SCM構築やIT中期計画の策定、ERP のグローバル展開、ワークスタイル変革のコンセプト立案などを支援。
その後、日本マイクロソフトに移り、以来、その豊富な経験を生かして、製造業を中心とする顧客のデジタルトランスフォーメーションの支援に当たっている。

LinkedIn: https://www.linkedin.com/in/masahiro-utsu/

■大きな転換期を迎える製造業が意識すべき 3 つの変化とは

グローバルな第四次産業革命(Industry 4.0)の潮流の中で、日本の産業を牽引してきた製造業が、歴史的ともいえる転換期の真っただ中に置かれています。そうした状況にあって、国内の製造業には、大きく 3 つの変化を見据えた対応が求められています。

1 つ目が、「自社のビジネス モデルをどう変えていくか」です。これまでも企業は、デジタル情報の活用を推進してきました。しかしそれは Web や SNS といったネット空間に蓄積された、いわばバーチャルなデータをどうマーケティングなどに活用するかが主な狙いでした。これに対し Industry 4.0 の世界では、各種センサー類から収集される、例えば工場の操業データや、クルマの走行データなどのリアルなデータとバーチャルなデータの融合により、これまでにない付加価値を創出し、マネタイズを図っていくアプローチが必須になってきています。

例えば、BtoB 向け製品を顧客に販売したあと、IoT の仕組みを通じて販売した製品の稼働状況をモニタリングし、遠隔保守や予防保全を行うサービスはその 1 つ。つまり今後、製品を販売することで完結する従来型のモデルから脱却し、販売後も製品に関わる付加価値を継続的に提供するサービスモデルへの移行が、メーカーにとっての大きなビジネス チャンスとして注目されています。

2 つ目の変化は、「顧客の嗜好の変化」です。現在の顧客は、「どのようなモノを所有するか」ということ以上に、そのモノを通じて「自らの生活をどれだけ豊かにする体験が得られるか」に消費活動の力点がシフトしてきています。メーカー側の視点で言い換えるなら、従来のように製品のスペックを顧客に訴求するのではなく、その製品によってどんなユーザー エクスペリエンス (UX) を演出できるかに立脚した、製品・サービスづくりが求められているわけです。

そして 3 つ目は、「競合の脅威」の中身が大きく変わってきていることです。従来、製造業にとっての競合といえば、自動車メーカーなら他の自動車メーカー、カメラ メーカーなら他のカメラ メーカーといった具合に、基本的には自社と同種のカテゴリの製品を提供している企業でした。しかし今日では、これまでまったく競合として意識していなかった他業種の企業が、突然、業種の壁を乗り越えて、強力なライバルとして立ち現れてきます。企業はそうした、いわゆる “ディスラプター (破壊者)” の出現可能性を十分に意識しておく必要があるでしょう。例えば有名なのは米 Uber 社ですが、これはタクシー会社の競合というだけではありません。シェアリングサービスが広がり、「所有」から「利用」に変われば、保険契約者も減るし、車の生産台数も減る。現在は直接の競合ではないビジネスに影響してくる可能性があるわけです。

■ビジョンを策定する「Dream」フェーズが最も重要

マイクロソフトでは、「デジタル アドバイザリ サービス」の提供を通じて、そうした製造業のお客様の取り組みを強力に支援しています。

デジタル アドバイザリ サービスの具体的なアプローチとしては、お客様が目指すべきビジネスの姿、ビジョンを策定する「Dream」、描かれたビジョンを実現するための仕組みを構築する「Design」、そしてビジョンの迅速かつ適切な具現化を図り、その成果をビジネス価値として刈り取る「Delivery」という 3 つのフェーズから成る取り組みを展開します。

中でも、とりわけ重要視すべきは Dream フェーズです。というのも、デジタル トランスフォーメーションは最終的には全社に及ぶ大きな取り組み。お客様が「これをやりたい」という強い願望が生まれなければ、途中で頓挫してしまったり、方向性があちこちにぶれたりしてしまったりすることも少なくないからです。そこで、Dream フェーズではまず、お客様と我々デジタル アドバイザリ チームとのワークショップを通じ、デザイン思考なども駆使しながら、売り手の視点ではなく、UX の観点で顧客に提供すべき価値をベースにカスタマー ジャーニー マップ (CJM) を策定します。その後、策定した CJM に基づいて、ビジネスモデルをどう変えていくかについてのシナリオを描き、それを実現するための技術面にかかわるシナリオを作成。そしてその構築にあたる Design フェーズに向けたロードマップを策定するというステップとなります。

■描いたシナリオを決して “絵に描いた餅” で終わらせない

それでは、ここからは我々が支援しているお客様事例をご紹介しましょう。最初は、流通業の顧客に向けた機器を提供しているメーカーです。同社では、ビジネス環境の大きな変化を受け、自社の収益の柱となる新規事業を検討されていました。

我々にお声がけをいただいた段階でお客様が描いていたのは、自身の顧客である流通業のビジネスに貢献したいということ。ただし、それは各店舗で買い物する消費者のデータを集め、そこに付加価値を付けて、マネタイズしていきたいというイメージはありましたが、消費者視点で価値提供できる CJM やビジネスシナリオまでは明確になっていませんでした。そこで、お客様の役員クラスの方や現場の営業担当者なども交えてワークショップを繰り返し実施。先ほど紹介したようなプロセスで Dream フェーズの取り組みを進めていきました。

そこで描かれたシナリオは次のようなものです。ペルソナとして子供の誕生日を控えたある主婦を設定。店舗からモバイル アプリを通じて、その主婦に誕生会用の料理に関するレコメンドを行います。それを受けた主婦は、サイト上で子供が喜ぶような料理をチャット ボットと音声で会話をしながらあれこれと選択し、当日のメニューを吟味し、注文内容を確定します。

選んだ商品を店舗で受け取ると選択した場合、店舗に訪れた際にアプリからその他の買い合わせのおすすめ商品についてのレコメンドを受け取って、店舗内のどこにそれらの商品があるかといったことも、店舗レイアウトと動線で案内・誘導してもらえます。そして、買い物を終えた際の支払いもレジレスで行えるといったストーリーとなります。この機器メーカーでは、支払いの仕組みとマーケティング プロモーション、及び店舗での買い回りを促すという、消費者と店舗双方にメリットがあるソリューションをセットで流通業に提供するシナリオを描いたわけです。

ワークショップでは、こうしたシナリオを、ペルソナとして設定された主婦の目線に立ち、そのニーズに寄り添う形で作成していきました。あわせて、シナリオ実現に向けて必要となる IT の仕組みをいかに整えていくかについても検討。マイクロソフトはテクノロジをベースとした会社であるため、ビジネスシナリオの検討と IT の実装イメージの検討を同時並行的に進めていくことが可能です。つまり、描いたシナリオを、決して “絵に描いた餅” で終わらせないことが大きな強みとなっています。

その後、このシナリオを「Vision Demonstrator」としてグローバル展開を見据えてインドにいるマイクロソフトのデザイナーと連携して英語で作成。Vision Demonstratorでは、今述べたようなストーリーを、どんなデバイスやテクノロジーを使って実現し、顧客にどのようなエクスペリエンスが提供できるか、電子的な紙芝居のような、誰もが具体的にイメージできるプレゼン資料のかたちで示します。今回のお客様では、描いたシナリオを経営層の方々に理解いただくために大いに役立てていただきました。現在、ここで紹介したお客様のプロジェクトは、具体的な設計に向けた準備フェーズへと進んでいます。

■業務、IT、プロジェクト管理のスキルを三位一体で提供

次にご紹介したいのは、働き方改革を推進しているお客様のプロジェクトです。この例は、デジタルを活用して社員の生産性向上に向けた新しい仕組みの展開計画を策定し、成果を刈り取るという大規模な「Design」「Delivery」フェーズの活動になります。このお客様は、海外拠点を含む全社へ、働き方改革を推進していこうとされていました。その目的には「業務の標準化による生産性の向上」「拠点間や国内外のコミュニケーションの活性化」、あるいは「意思決定の迅速化」といったことが挙げられました。


本プロジェクトにおいてデジタル アドバイザリ サービスでは、ツールの導入からその利用定着、さらにはコミュニケーションや情報共有のプロセスにかかわるデザインなども含めたトータルな側面からの支援を提供しています。

このプロジェクトの特徴は、全カンパニー、全地域対象で、グローバル約 10 万人を超える従業員に短期間で導入することでした。そこで現場の混乱をいかに少なくするかといったことを工夫しながら推進していきました。そのために、計画重視で徹底的に WBS にこだわり、マイルストーンを週ベースで設定。各グループに週次で星取表形式の週報を作ってもらったり、ツールの使い方研修、表彰制度を採り入れたりするなど、大規模なグローバルプロジェクトを推進する支援を行ってきました。

現在では紙やメールベースでの文化から脱却され、チャットによるコミュニケーションや Skype for Business による Web 会議、SharePoint を使った部門間での文書共有などが進み、コラボレーションやコミュニケーションが活性化し働き方改革のツールとして定着しつつあります。

このように製造業における変革は、拠点や関わるステークホルダーの数も増えるため、デジタル アドバイザリ サービスの提供には、業務のスキルと IT のスキル、プロジェクト管理のスキルを三位一体のかたちで駆使し、支援できる体制が必要となります。私自身も、過去 30 年以上にわたり、システム エンジニアとして、またビジネス コンサルタントとして、製造や流通をはじめ多種多様な業種のお客様をビジネス、IT の両面から支援してきました。日本だけでなく、海外にもこうしたスキルを蓄積しているメンバーが多数おり、グローバルプロジェクトを海外のマイクロソフトメンバーと連携しながら推進していくことが可能です。

新たな潮流を日本の製造業のチャンスとするために――。今後もより多くのお客様のデジタル トランスフォーメーションを成功に導くお手伝いをしていきたいと考えています。

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