ヘッダーフォト ブースと人々
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2022 年 10 月 5 日〜7 日の 3 日間、日本マイクロソフトはインテックス大阪で開催された「関西 ものづくり ワールド」に出展しました。関西 ものづくり ワールドは、製造業の短期開発、生産性向上、品質向上、VA/VE、コストダウンなどに寄与することを目的として、9 つの展示会で構成された展示会です。自動車、電機、機械、精密機器メーカーの設計、開発、製造、生産技術、購買、情報システム部門の担当者をターゲットとしており、今年は 798 社の企業が出展、3 日間を通して 2 万 7162 名が来場しました。

ものづくり ワールドの会場外観

日本マイクロソフトが出展したのは、関西 ものづくり AI/IoT 展です。ここには IoT プラットフォームや AI ソリューション、セキュリティ、通信機器などの製造業向け IoT・AI ソリューションを持つ企業が出展しています。
日本マイクロソフトの出展は 2019 年以来 3 年ぶり。ブースのテーマに「Microsoft Cloud for Manufacturing」を掲げ、日本マイクロソフトの考えるデジタルエンジニアリングの現在と未来を表現する内容を用意しました。
ブース内には、デジタルツインを活用した業務シミュレーションや HoloLens 2 による作業支援など、日本マイクロソフトの製造業界向けソリューションを紹介する 3 つの小ブースと、協力会社である ISID (電通国際情報サービス) 社の設計開発分野での製造 DX、SCSK 社のクラウド PLM (Product Lifecycle Management) を紹介する 2 つの小ブースを設置、さらにブースシアターを開催し、会場内を歩く方々へのアピールを行いました。3 日間を通して多くの来場者が訪れ、久しぶりにリアルの場で製造業者の皆さまと接する貴重な機会となりました。

会場内のマイクロソフトのブース
マイクロソフトのブースの前に集まる人々_1

日本マイクロソフトとパートナーの製造業向けソリューションを紹介する小ブース

「デジタルツインベースの仮想コラボレーション〜インダストリーメタバース〜」

2022 年 5 月にマイクロソフトは開発者向けカンファレンス Microsoft Build の中で「インダストリアルメタバース」というコンセプトを発表しました。この小ブースでは、世界最大級の製造業のための国際展示会「ハノーバーメッセ」でも展示された、川崎重工とマイクロソフトが連携して進めているインダストリアルメタバースの取り組みが紹介されました。

マイクロソフトのブースの前に集まる人々_2

マイクロソフト コーポレーションの製造・サプライチェーンインダストリーディレクターの濱口 猛智は、「メタバースというとバズワードのように捉えられがちですが、私たちは、IoT からデジタルツインを経て、ステップバイステップで進んだ結果、メタバースが実現されると考えています」と、誤解されがちなメタバースの概念を説明。たとえばコロナ禍において現場に人が集まれない状況があり、そこに労働人口の減少や製品サイクルの加速という問題が生じたときに、バーチャルでコラボレーションして解決できるのが、製造業におけるメタバースのメリット、と語ります。

メタバースの画面の前で説明をするスタッフ

「製造業 DX では、IoT で状況を見える化するところまでで終わっていることが多い気がします。その先にある KPI を通じた生産量調整や品質の向上のルーチン化まで行きついているところが少ないことが課題であり、次のステップに進むには、見える化したデータをモデル化する必要があります。そのモデル化の仕組みを提供するのが私たちの仕事です」(濱口) 。濱口はセミナープログラムにも登壇し、インダストリアルメタバースをさらに深く解説。本稿後半部分でその概要をご紹介しています。

「産業 IoT からデジタルツイン環境への迅速なステップアップを実現」

こちらの小ブースでは、実際の製造現場からデータを収集し、クラウドで分析して何かしら気づきを得たり、改善に活かしたりする一連のシナリオのデモが見られます。マイクロソフト コーポレーションのクラウドソリューションアーキテクトの半田 恭大は、製造業におけるデジタルツインについて「生産設備やライン、工場、サプライチェーンを定義して、横断的にモデル化し分析に役立つ情報を提供する技術」と紹介。データがサイロ化していて問題があったときに生かせないという製造業にありがちな課題を解決するためのソリューションであると解説します。

デジタルツインの画面の前で説明をするスタッフ

「日本の製造現場で働く方々は改善能力がとても高く、今までに培ってきた豊富な経験や個人のスキルにより高い生産効率を維持してきたと思います。ですが、今後そのような働き手が減っていく状況で、自動化の仕組みなどデジタルの力を求める企業も増えてくるはずです。クラウドという私たちのサービスが製造業界にも浸透しつつある今、最新のテクノロジーを現場で使える形で提供していきたいと思っています」(半田)

「HoloLens 2 体験コーナー」

MR (Mixed Reality /拡張現実) ヘッドセット HoloLens 2 は、これからの製造業界で大いにポテンシャルを発揮できるツールとして期待されています。たとえば、労働人口の減少や熟練工の高齢化といった課題を解決するために、HoloLens 2 を用いて作業支援や技能伝承を行う企業も増えています。

Hololens 2 を試用する再乗者

こちらの小ブースでは、HoloLens 2 と Dynamics 365 Guides を使って作業のガイドとリモート支援が体験できるコーナーを設置。常に順番待ちの列ができており、関心の高さがうかがえました。マイクロソフト テクノロジーセンター シニアテクニカルアーキテクトの鈴木 敦史は、「今回は、製造業界の現場の方々の意見を反映したデモを作成しました。実際に体験していただくことで、これなら自分たちでも取り入れられるかもしれないというヒントを得て帰っていかれる方も多く、私たちが提供するテクノロジーと製造業界の皆さまが求めていることが非常に近いということが伝わってきました」と手応えを語ります。

Hololens 2 体験ブース前に掲げられたヘッドセット
Hololens 2 のブースの前で説明をするスタッフ

「私たちの考えるインダストリアルメタバースが実現すれば、デジタル空間での機械と人間の共同作業がこれまで以上に効率よく進められるようになると思っています。 HoloLens 2 は直接体験できるのでとてもわかりやすいですが、私たちは直接的な作業支援だけではなく、データの蓄積やその分析が非常に重要だと考えており、全体的な製造業界向けのソリューションを展開していきたいと思っています」(鈴木)

「Azure 上の SaaS や IaaS を活用して手早くスモールスタートが行える PLM システムのご紹介」(SCSK)

「点在しているファイルベースのデータなどを一元化する。それが DX の第一歩です」と解説するのは SCSK プラットフォーム事業グループ中部・関西プラットフォーム事業本部 PLM ソリューション第一部第一課課長マネージャの番 正生氏。CAD のデータ管理や部門に特化した管理を行う PDM と比べて製品のライフサイクルをすべて管理する PLM は、現状ではややハードルが高く導入する企業は限られているものの、同社が導入支援を行う PLM システム「Aras Innovator」を用いればスモールスタートが可能になると解説。番氏は、PLM 導入をためらう企業に対して、クラウドで素早く導入し、柔軟なカスタマイズ機能によりステップバイステップの製品ライフサイクル管理が可能になる点を強調します。

PLM on Azure の画面の前で説明をするスタッフ

「住宅に例えると私たちの Aras Innovator は注文住宅です。自社パッケージ製品のなかにお客さまの業務をはめ込んでいく建売住宅的な PLM システムが多い中、Aras Innovator であればお客さまの業務に合わせ込むことができます。バージョンアップも無料なので、長い目で見るとコスト面でも有利だと思います」(番氏)

「電通国際情報サービスとマイクロソフトが考える製造業の価値の源泉であるエンジニアリングチェーンの DX」(ISID)

製造業は、サービスチェーン、デマンドチェーン、サプライチェーン、エンジニアリングチェーンの 4 つのプロセスチェーンから成り立つと言われています。今回 ISID の小ブースで紹介されていたのは、エンジニアリングチェーンの分野を支援する DX ソリューション。ISID 製造ソリューション事業部 製造 DX ユニット長 兼 エンタープライズ IT 事業部 EIT コンサルティング 5 部長の高田 亮太氏はこのツールを「マイクロソフトと ISID の製品と知見を融合、典型的なユースケースをテンプレート化した Minimum Viable Product (MVP)」と解説します。これらの製品群は、商品企画から製品準備に至る各段階において、構想設計、事前検証、不具合の解消を目的として開発されています。

ISID のパネルの前で説明をするスタッフ

「製造業 DX においては、なるべく上流過程で問題を潰していくことが重要です。上流過程の生産性を向上して、浮いたリソースを新たな価値の創出に役立てることを考えないと、これからの製造業で生き残るのは難しいはず。生産性向上と価値創造の両面で、日本マイクロソフトさまと当社の共同ソリューションを役立てていただきたいです」(高田氏)

行き交う人も思わず足を止めるラインナップでブースシアターを開催

ブースの正面には演台が設けられ、開会期間を通して 6 名のスピーカーが 15 分刻みで講演するブースシアターが開催されました。

公演中のスピーカー
マイクロソフトのブースの前に集まる人々_3
マイクロソフトのブースの前に集まる人々_4

SCSK と ISID はそれぞれ「PLM on Azure〜Aras Innovator を利用したクラウド活用〜」「ISID とマイクロソフトが考える「製造業の価値の源泉であるエンジニアリングチェーンの DX 戦略」」と題したセッションを、日本マイクロソフトは 「マイクロソフトが考える次世代の設計製造データ・プラットフォーム全体像」「製造業のデジタル革新を支援するマイクロソフトのメタバース」「クラウド HPC 活用によるデジタルエンジニアリング」「モノづくりとデジタルツイン~Azure Digital Twins~」という 4 つのテーマに関するセッションを展開。ときには通路に溢れるほどの人が聞き入っていました。

公演中のスピーカー 2名

特別公演「マイクロソフトの製造業への取組み〜インダストリアル メタバースの例など〜」

10 月 6 日には、セミナープログラムにおいてマイクロソフト コーポレーションの製造・サプライチェーンインダストリーディレクターの濱口 猛智が登壇。「マイクロソフトの製造業への取組み〜インダストリアル メタバースの例など〜」と題して特別講演を行いました。
講演のなかで濱口は、日本マイクロソフトブースでも紹介されたインダストリアル メタバースと、それを実現するマイクロソフトの取り組みを紹介。デジタルツインや AI といった技術、そして仮想空間における新しいコミュニケーションが、製造業界のさまざまな仕組みを変革し得る可能性を示しました。その概要を紹介します。

特別講演の会場の様子

製造業を取り巻く環境の変化とマイクロソフトのソリューション

まず濱口は、製造業を取り巻く変化について解説。6 割を超える企業がスマートマニファクチャリングへの投資を進めている点、1 日あたり 1 PB (ペタバイト) もの大量のデータがひとつのスマートファクトリーで生成されており、いかにこのデータを活用していくか。多くの企業が想定外のリスクを低減するために分散型のサプライチェーンに移行しつつある点、リモートワークの普及に伴う顧客とのコミュニケーションの変化、常時ネットワークが接続されることによる生産性の向上など、デジタル化に伴う環境の変化により、企業は「考えなければいけないことが増えている」と語ります。

製造業を取り巻く変化の写真入り説明図

また、「ものづくり白書 2022」からの出典データを示し、製造業界においてはソフトウェアへの投資が滞っている点、また業務プロセスの効率化とスピードアップへの投資が減り、ビジネスモデルの変革にシフトしつつある点を挙げて、「みなさんすでに目の前にある仕事を早くする、よくすることは考えています。今はさらにそこより先の新しいビジネスを考えましょうという部分が加熱している」と、業界内の DX のトレンドが、働き方改革や業務プロセスの効率化から、ビジネスモデル変革やサプライチェーンの見直し、強化にシフトしていることを示しました。

国内製造業の IT 投資領域のグラフ

そのうえで濱口は IDC FutureScape Predictions 2022 を出典とする製造業界の未来予想グラフを示し、「2027 年までの間に、60% のビジネスコンテンツがデジタルツインでモデル化できるようになると言われていること」、「GAIA-X やカテナ-X といったデータ連携の流れが加速し、産業用エコシステムデータ活用が進むこと」に対応する準備を進めるべき、と説きます。
そしてマイクロソフトが提供する技術プラットフォームがその支援を行える点を強調。サステナビリティ、セキュリティ、そしてデータとインテリジェンスの解放という基盤をコアとして、マイクロソフトはさまざまな分野で、変化に強く持続可能な製造業の未来のためのソリューションを提供していること、なかでも「現場の方々が自然に情報を扱える環境を提供することで現場の働き方を変えていくプロセスが特徴的」と語ります。

マイクロソフトが提供する技術プラットフォームの図解
マイクロソフトが製造業向けにフォーカスする 5 つの分野と 3 つのコア基盤の説明図

そして、ハノーバーメッセ 2021 で語られたマイクロソフト CEO のサティア・ナデラのメッセージを引用。いわく「これまで Excel がナレッジワークを変えてきたように、ローコード・ノーコード技術のようなツールの登場によって、現場のエキスパートが現場でオートメーションを実現し、製造業の生産性を一気に変えるようなパラダイム変化になる」。すなわち、市民開発によって現場の方々が自分たちの使いやすいツールを自らつくり出すことが、新しい製造業の姿になると思います、と濱口。製造業の未来とマイクロソフトの考え方を示して後半のセッションへ移ります。

ハノーバーメッセ 2021 でのマイクロソフトのメッセージのスクリーン

インダストリアル メタバースが示す製造業の未来

後半のセッションでは、マイクロソフトが提唱するインダストリアル メタバースに繋がるデジタルツインの活用についてがテーマとなります。デジタルツインとは「現実の世界のモノやシステムをデジタルの世界で動的にモデル化したもの」(濱口) であり、センサー等のデータに基づいて、対象となる物体やシステムの状況を把握したり、変化に対応したりできるようにすることで、効率化や付加価値の向上に貢献することを目指すもの、と濱口は解説します。

デジタルツインの活用についての講演中のスピーカー

デジタルツインが持つ価値について濱口は、蓄積されたデータを見える化することで、過去と未来が同時に見えてくる点を例として挙げます。たとえばデジタルツイン上でトラブルの発生が認められた場合、時間をさかのぼってどこに原因があったかを探ることができる。さらに、その原因を除くためにパラメータを変更した場合、将来どのような変化が起きるかをリアルタイムで知ることができるのです。これを製造業の現場に適用すれば、コストダウン、スピードアップ、品質向上を同時に実現することが可能になるというわけです。

デジタルツインの図解_1
デジタルツインの図解_2

さらに、その場にいなくてもデジタルツインを用いれば遠隔地から仮想空間で事前にシミュレーションが行える点を挙げ、「ここまで来るとメタバースに近づいてきた感覚があるのではないでしょうか」と、本セッションの核心である「デジタルツインからインダストリアルメタバースへ」の話題に入っていきます。

濱口は「現在、メタバースは非常に大きなバズワードと化しており、定義が定まっていません。私たちマイクロソフトでは、次世代の新しいコンピューティングの形として考えています」と、マイクロソフトがこれまで提供してきたパーソナルコンピューティングやクラウドサービスが融合した概念としてメタバースを定義します。
そのうえで、なぜ製造業界でメタバースが有効に活用され得るのかを説明。いわくメタバースは「仮想空間」「アバター」「ストーリー」の 3 要素から成立しており、製造業においては仮想空間がデジタルツインに、アバターが人と機械に、そしてストーリーが業務プロセスに置き換えられることから、「メタバースと皆さんの仕事は、実は近いところにあることがわかっていただけるのではないでしょうか」と聴衆に語りかけます。

メタバースを構成する要素の図解

メタバースまで到達する道のりについて、濱口は言葉をつなぎます。「IOT でデータを取得し、そのデータを見える化してさまざまな判断に役立てる。ここまでは多くの企業ですでに取り組まれている部分と言えるでしょう。ここからひとつ進んだところで、あらゆるデータを可視化してシミュレーションまで行えるようにする。これがデジタルツインによって実現できます」。そして、コミュニケーションの部分まで仮想環境で行えるようになるのがメタバースなのです。
「たとえば、機械がアバター化しますから、“私、ちょっと調子が悪いんですけど”といったメッセージを機械自らが出してくる。しかもその機械が置いてあるのは東南アジアの工場かもしれない。では日本にいるエンジニアが仮想空間で修理しましょう。そんな世界観が実現するのがメタバースの世界なのです」と濱口。まるで SF 世界の話のようですが、機械との対話や場所にとらわれない働き方は、すでに実現可能なのです。

IoT活用からデジタルツイン、インダストリアル メタバースへの流れの図解

最後に濱口は、マイクロソフトが進めるインダストリアル メタバースのプロジェクトである川崎重工の事例をビデオで紹介。労働人口の減少や消費者のライフサイクルの加速によって工場のライン変更が頻発する現状があり、それに対応するために自動化が進む工場において問題が起きたとき、必要な技術を持った複数の人員がいかに共同で作業し、いかにラインを止めずに対処できるか。それを解決するのがインダストリアル メタバースであることがよく伝わってきます。

インダストリアル メタバースの図解

「私が考えるインダストリアル メタバースが最大価値をもたらすために必要なのは 3 点です」と濱口。ひとつはシミュレーション、予測、自動化。もうひとつが新しい没入型世界の創造。そして最も大切なのがプレゼンスの力であることを強調します。「トラブルが起きた際にやり取りする相手が全く知らない人の場合と知り合いの場合では安心感が全く違うでしょう。それと同じで、場所は離れていても寄り添う感覚でコミュニケーションがとれることがメタバースのなかでも一番重要な要素だと思います」と、仮想空間においても、大切なのは人と人とのつながりが大切である点を強調してセッションを終了しました。

40 分ほどの短い時間でありながら、製造業界の DX トレンドの変化に対応するインダストリアル メタバースの世界観が理解でき、マイクロソフトのソリューションが製造業界の変革をさまざまな面から支援できる可能性を秘めていることもよく伝わってくる講演でした。

会場に掲げられたマイクロソフトの看板