メイン コンテンツへスキップ
業界

【インタビュー】働くための制度と場所とITツールを整備し全社横断で「働き方改革」を推進 (味の素株式会社)

※ この記事は 2018年06月21日に DX LEADERS に掲載されたものです。

【モダンワークプレイス・インタビューシリーズ】第5回

2017年度より、味の素では午前8時15分始業、午後4時30分終業という所定労働時間を打ち出した。日本を代表する大企業の一つであり、積極的なグローバル展開で知られる同社が、なぜこうした大胆な働き方改革を断行するのか。どういった仕組みでそれを実現しようとしているのか。そこではITはどのような役割を果たすのか。働き方改革を支えるIT部門の皆さんに話を伺った。

ajinomoto株式会社 情報企画部 大杉穣氏(左)、情報企画部IT基盤グループ 扇谷文太氏(中)、情報企画部IT基盤グループ 楠麟太郎氏(右)

情報企画部 大杉穣氏(左)、情報企画部IT基盤グループ 扇谷文太氏(中)、情報企画部IT基盤グループ 楠麟太郎氏(右)

従来の人事部主導型ではなく全社一丸として取り組む

味の素が明確な意思を持って働き方改革に取り組み始めたのは、2008年度からだ。「味の素グループ WLBビジョン」を策定し、WLB(ワークライフバランス)の向上を経営戦略の一つに位置付けた。以来、スーパーフレックスタイムや時間単位の有給休暇、テレワーク、企画・業務型裁量労働制など、場所や時間にしばられない働き方を実現する人事制度を次々と導入してきた。

「しかし、依然として残業を前提とした働き方になっていました」と味の素で情報企画部マネージャーを務める大杉 穣氏は語る。そこで2020年に世界の食品業界トップ10入りを目標とする同社では年間総実労働時間1,800時間を実現するために、経営主導のマネジメント改革にワークスタイル改革を加えた第二期働き方改革を2016年度からスタートさせた。目指したのは、2020年度までに1日7時間労働を前提としたグローバル基準の働き方だ。同社にとって、避けては通れない道だといえた。

第二期働き方改革の考え方

第二期働き方改革の考え方


「第一期は人事部が中心となって人事制度の変革に取り組んできましたが、2016年度からの第二期は経営企画、情報企画、人事の三つの部門が中心となり、その他の部門も一体となった全社横断のチームで推進しています。人事制度というルールを変えるだけではなく、利用しやすい風土作りに積極的に取り組み、成果を出すための仕組みを提供しています」(大杉氏)。

特に特徴的な大きな変化は、対象を一部ではなく全社員に拡大したことだ。在宅勤務は、育児や介護といった事情を抱えた社員だけではなく誰もが選択できる勤務形態になり、月2回までという制約もなくなった。朝5時から夜10時までの時間帯であれば、いつでもどこでも仕事ができ、労働時間も30分刻みで申告できる。

当然のことながら、終業時間が午後4時30分になったことは職場に大きな変化をもたらした。「夕方早い時間に帰るのが当たり前の雰囲気」(大杉氏)になり、通常の勤務形態の中で子供を保育園に迎えに行くこともできる。新しい働き方は社員の生活スタイルそのものを変えつつある。

ICT環境を整備することで「どこでもオフィス」を実現

働き方改革の施策の中で、抜本的な意識改革につながる仕組みとして同社が力を注いでいるのが、場所や時間を問わずにどこでも働ける環境「どこでもオフィス」の実現である。具体的には、どこででも仕事ができるように制度を緩和するとともに、各人に軽量ノートPCを配布するなど社外で働くための環境を整備した。

さらに自宅では仕事がしづらいという人や、出張の隙間時間の有効活用のために、シェアオフィス事業を展開する複数の企業と提携。社外にサテライトオフィスも確保した。現在、全国で100箇所にサテライトオフィスがある。働くための制度、ITツール、そして場所の3点セットを会社として提供することで、「どこでもオフィス」を推進している。

どこでもオフィスの概要

どこでもオフィスの概要

その中で情報企画部IT基盤グループがIT部門として取り組んだのは、先に述べた軽量ノートPCの提供に加えて、外部から社内のシステムにアクセスできるようにネットワーク環境を用意すること、インターネットで会議に参加できる Skype for Business 会議の仕組みを整備すること、そして社外からでも必要なファイルにアクセスできるネットワークドライブを導入することだった。

「通常、社員のPCは3年で全台を入れ替えてきましたが、今回はこの1年間に4,500台の軽量ノートPCを全社員に配布し、どうしてもデスクトップPCが必要な業務をしている人を除いて、平等に行き渡るようにしました」と味の素情報企画部IT基盤グループの扇谷文太氏は話す。そこからは、ITツールを整備することで、一気に働き方改革を推進しようという強い意志が感じとれる。

もう一つの大きな柱は、軽量ノートPC導入とセットで広げてきた Skype 会議による会議改革だ。以前からマイクロソフトの Skype for Business を導入していたが、改めてマニュアルを整備したり、人事の説明会で使い方を紹介したりするなど、啓発活動に取り組んだ。味の素情報企画部IT基盤グループの楠麟太郎氏は「会議があるから家では働けない、とは言わせないことが大きな狙いです」と語る。

Skype for Business 会議と Surface Hub の活用による会議改革で月数千万円相当の出張費見なし削減効果を創出

この会議改革促進の一翼を担っているのが、マイクロソフトの「Surface Hub」だ。2016年に初めて導入され、現在は北海道から沖縄までほぼすべてのエリアに76台(関連会社も含め)導入されている。楠氏は「働き方改革の説明会で紹介し、ユーザの要望に応える形で台数を増やしてきました」とこれまでの経緯を振り返る。

「会議やその準備の時間は労働時間の4割を占めると言われています。働き方改革を実現するためには、この時間をどう削減するかが大きな鍵になります。それを実現するための一翼を担っているITツールが Surface Hub です」と扇谷氏は語る。

IT部門の積極的な啓発活動が功を奏して、会議改革は大きな成果を上げている。直近では月間3,500件もの Skype 会議が実施された。導入当初は200件程度だったことを考えると約17倍にも増えている。経済的な効果も大きい。会議に参加するためにかかっていた交通費や移動時間も、Skype 会議によって削減された。その効果を金額に換算すると、「月に数千万円相当の見なし出張費が削減されたことになります」と楠氏は説明する。経営に与えるインパクトも相当だろう。

Surface Hub がもたらした価値は経済的な効果だけではない。会議の進め方自体も大きく変わった。「一般の会議室に加え、役員室にも Surface Hub を導入するなど、役員への説明にも活用しています。紙の資料をなくしてペーパーレス化を進めることで、資料の差し替えや配布といった準備作業が効率化されるようになりました。またその場で Surface Hub に書き込み、資料を修正することで意思決定が早くなりました」(扇谷氏)。

社内の情報共有という面でも効果は大きい。九州エリアでは福岡と鹿児島で常時 Surface Hub を接続し、お互いの様子がリアルタイムで分かるようにしている。扇谷氏は「いつでもコミュニケーションできる土壌をつくることで、同じ職場にいる感覚で働けるようになりました」とその効果を語る。

ペーパーレスとフリーアドレスでより生産性向上に拍車をかける

新たな働き方改革は、多くの社員から高評価を受けている。「新制度を導入して半年後に取ったアンケートでは、約8割の社員が良い制度だと評価してくれています」と大杉氏は胸を張る。
テレワークというスタイルも、この1年で定着した。
昨年10月の関東地方の台風到来の際や今年1月から2月の大雪では早速成果が現れた。大杉氏は「多くの社員が在宅で仕事をしましたが、なんの混乱もなく、生産性が落ちることもありませんでした。BCPの観点からも評価できると思います」と語る。

サテライトオフィスは、集中的に仕事ができる場所として活用されている。意外なことに本社以外の研究所の社員の利用も多い。「柔軟な働き方ができる制度と、サテライトオフィスという選択肢が与えられたことで、それぞれがより生産性の高い働き方ができる環境を選択しています。これはこの一年の大きな成果です」(大杉氏)。

今後の課題として挙げられているのは、仕事の中身を変えることだ。大杉氏は「働く制度や場所やITツールは整えましたが、依然として仕事は紙ベースで行われていることが多い」と語る。
同社では今後体系的に資料を整理し、オフィスのペーパーレス化を実現し、さらにオフィスをフリーアドレス化することで、業務の生産性を向上させていくという。今後の同社の取り組みにも注目したい。