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業界

【小林製薬・藤城克也氏インタビュー】これからの時代はITを活用した企業だけが業績を上げていく

※ この記事は 2018年02月28日に DX LEADERS に掲載されたものです。

小林製薬株式会社 業務改革センター センター長 藤城克也氏

藤城克也氏は、小林製薬の業務改革センターにおいてIT部門と業務支援部門を統括している。
また、企業に向けた各種セミナーにも登壇し、豊富な知見をもとにした、ITの活用方法やイノベーションを起こす方法などを、積極的に発信しているビジネスキーマンでもある。

藤城氏は、ITを導入し成果を上げている多くの企業があるのに対し、まだ取組んでいない企業もあり、その差が歴然としているという。そして、2018年は間違いなく、差がさらに広がって行く年だと指摘する。ITの導入が遅れている企業は2018年の間に追いつかなければ、4、5年は遅れてしまう、と警告する。

ITのインパクトは無視できない

──藤城さんが率いる「業務改革センター」はどのような部署なのでしょうか?

業務改革センターには大きく二つの部門があります。ひとつはIT部門。これは小林製薬グループ全体のシステム管理と開発を担います。もう一つは業務支援部門。いわゆるシェアードサービスセンターです。

本社も含めたグループ全体の給与計算業務や経理業務、あるいは庶務業務などを一か所に集め、集中処理することによって効率化しましょう、ということに取組んでいます。そのため、業務改革センターとなっていますが、実態はまだまだ業務改善のレベルに近いといえます。

──IT部門と業務支援部門の業務の割合はどのようなものなのでしょうか?

8割がITですね。経営に与えるインパクトはITの方が多大です。下手をすると経営を揺るがしかねない事態が起こり、上手く行くと濡れ手に粟で売上が上がるかもしれない。それほどITは爆発力を持っています。

小林製薬株式会社 業務改革センター センター長 藤城克也氏

ITの活用は避けては通れない

──ITと業務支援の両方について伺いたいのですが、まずはITの方から。2018年のトレンドをどのようにお考えでしょうか?

2年ほど前からAIやビックデータ、IoTという言葉がバズワードとなっていましたが、2018年からは本格的にビジネスに入り込んでくるだろう、という感覚を持っています。

小林製薬では2017年から少しづつRPAを取り入れました。具体的には、経理などのバックオフィス部門で従来はExcel等を使って人手で行っていた作業を自動化したり、商品開発に関わる部門でインターネットから必要な情報を自動で取得すること等を行いました。
またAIに関してもベンチャー企業と共同で商品開発のアイデア創出に利用できないかと取り組みを始めました。2018年はこの活動の幅を広げて進めることで、時代に乗り遅れないようにしないといけない、と思います。

──時代に乗り遅れてしまう企業の課題は何でしょうか?

AIにしろRPAにしろ、あくまでもツール。活用するためにはその前に業務環境を整理しないといけません。その整理ができていない企業が多いように思います。例えば多くの企業で業務が属人化してしまっている。属人化した業務をAIやRPAに置き換えようとしても絶対に上手くは行きません。

トップから「うちもそろそろAIを」と言われたとき、いきなりAIを取り入れよう、とするのではなく、まず業務を標準化する必要があります。

──業務の標準化に取組んでいる企業は多いのではないですか?

まちまちではないでしょうか。まったく取組んでいない企業もあれば、相当に進んでいる企業もある。差があります。2018年はその差がさらに広がって行くでしょう。遅れている企業は2018年の間に追いついていないと、4、5年は遅れてしまうように思います。

──2018年はどの企業にとってもターニングポイントとなりそうですね。

AIやRPAは企業に入りつつあり、上手く行っている企業は成果を上げています。それが2018年は拡大して行くでしょう。
何億円もかけて取組んではいないけれど、数百万円レベルから少しづつ投資していた企業が技術のノウハウを蓄積したのが2017年。2018年はそこからさらに技術を進化させるでしょうね。

──先進的な取組を行っているのはどのような企業なのでしょうか?

機械系や製造業、電機や自動車などは先端です。小林製薬のような商品単価がひとつ100円、200円という企業ではIoTを取り入れるのは難しい。例えば商品にICチップを埋め込もうとしても、そのコストをどうするか? ICチップが1円だったとしても「だから価格が1円上がります」が許されない世界。やはり、単価が高い商品を扱っている企業が有利です。

──それでも、小林製薬では時代に乗り遅れまいと努力している?

製品にIoTを利用できなくとも、生産設備にIoTを活用してデータを取る、という程度では取組んでいます。先ほどのRPAは、バックオフィスの、言葉は悪いですが単純作業に導入して成果は上がっています。

また、AIは、詳しくは言えませんが、薬剤師が行っていたことをAIが代わって処方するとか、今までになかったような新しい効果効能を見つけるためにAIを活用するとか。そのようなことを今、ディープラーニングのベンチャー企業、クロスコンパスと組んで開発しているところです。

──成果は出そうですか?

まだまだです。時間はかかると思います。そのようなAIに投資してもリターンがあるとは限りません。上手くいかないかもしれない。経営者に「500万円を投資します」と言うと当然、リターンを求めます。けれど、それには回答できない。「すみません。500万円をどぶに捨てることになるかもしれない。でも、今やらないと時代に遅れてしまうのでやらせてください」と。そこでやる、やらないの判断が経営者に求められます。

──経営者を説得するにはどうすればいいのでしょうか?

経営者はどの会社でもシビアです。1万円であっても目的が明確でないものには支払いません。「500万円、自由に使っていいよ」では会社はつぶれます。

ですので、担当者が新しいことに取組みたいのなら、最初は少ない金額で投資して、成果を出して、小さな成果でもいいので「このような成果が出ました」と報告することです。すると経営者は「今はそれほど大きな成果ではないけれど、成果が出るのならやってみるか」となります。

経営者は、今のビジネスのやり方が永遠に続くとは思っていません。変えていかなければいけないと思っています。でも大きなリスクは取りたくないので、小さく入って、大きく育てる。上手くいかなければすぐに止める。止めてもまた別のことに取組む。一度、チャレンジしていれば新しい発見があるかもしれません。小林製薬はまさにそうしたビジネスモデルです。

──ベンチャー企業とアライアンスしている企業は多いのでしょうか?

多いと思います。業務提携や共同研究レベルで、費用としても数百万円から数千万円くらい。もちろん、企業によっては億単位の費用をかけている。これは幅がありますね。
オープンイノベーションでいうと、大学との共同研究もあります。

イノベーションを起こす方法とは?

小林製薬株式会社 業務改革センター センター長 藤城克也氏

──続いて、業務支援について伺いたいのですが、イノベーションにはどのように取組めばよいのでしょうか?

業務改革、イノベーションというとハードルが上がってしまいます。そうではなくて、現場には「改善を積み重ねましょう」と伝えることです。例えば毎週とか毎月、1個2個でいいので業務改善のアイディアを出してもらうこと。するとそのなかにはいくつか光るものがあって、コストダウンにつながる。10万円コストダウンできるものが100個積み重なると1000万円になります。

コツは、大それたことを言わず、1000円でも2000円でもよいからコストダウンする、1時間でもよいから業務時間を短縮できるアイディアを全員から出してもらうことです。

──上司に「1000円コストダウンできます」と言うと「だからどうした?」と言われそうです(笑)。

上司が「なんだ、1000円かよ」と言ったら部下は二度と言ってこないでしょう。でも、「1000円! よく頑張った。立派なもんだ」と言えば、また一生懸命考える。現場のモチベーションを高めるためには、提案を上司が認めることです。

──小林製薬は業務改善でもとても成果をだしている。その秘訣はなんでしょうか?

2つあります。
1つは先ほどのハードルを上げないこと。例えば、「職場の蛍光灯が切れそうでチカチカしていました。眼に悪いし効率も悪くなるので、蛍光灯を新しくしました」。これで改善提案1件なんです。

それを「バカな」「当たり前のことをしただけ」と言ってはダメなんです。小さなことでも提案すること。「提案とはこうあるべきだ」とハードルを上げると誰からも出てこなくなります。

2つめは強制力です。月に1回は必ず出すと決めること。小林製薬では毎月月末10日前になると「まだ、提案が出ていません」とメールが来ます。そして、提出しないと名前が公表されます。恥ずかしいから私などは必死で出します。「提案が小林製薬の命だ。だから絶対やるんだ」という会社の意識があります。
この2つとフィードバックです。

──先ほどの話ですね。

提案に対してよかった、悪かったと反応してあげること。自分がやったことに何らかのアクションがないと行動しなくなります。

──小林製薬では大ヒット商品がたくさんあります。それらもそんな小さなアイディアから生まれたのでしょうか?

『ナイトミン 鼻呼吸テープ』という商品があります。TVCMもしていますが、口にテープを貼る、というものです。最初の提案は「口を閉じると鼻呼吸になるから、いびき防止になる」というアイディアでした。聞いたときは正直、「なんだ?」と思いました(笑)。

でも、いびき防止だとマーケットが小さいし、他にも商品はある。ポジショニングとして、いびき防止ではいまいち魅力的ではない。それで「安眠」をコンセプトにしました。就寝時に口を開けていると口呼吸になり、「口・のどの乾燥」「いびきの音」の原因になります。それを防ぐことで安眠できるというものです。

おかげさまで発売から好調で売上目標を達成できそうです。

アイディアをみんなでディスカッションしてコンセプトを固めて商品化する。そうして誕生した商品は小林製薬では多くあります。

──アイディアをアイディアで終わらせなかったところがヒット商品に結び付くのでしょうね。

アイディアはひとりの発想で生まれますが、それは一方向しか見ていないもの。いろんな人がいろんな角度で見てブレインストーミングして肉付けして行く、という方法で商品を開発しています。

面白そうと思ったら躊躇なくやること

──伺っていて、ITと業務支援の両方を担っていることに価値があるように感じました。

ITと業務支援は切っても切り離せません。

我々はプラットフォーマーになる、トップを走りたい、と言うわけではありませんが、乗り遅れると他社が作ったものに後から乗っかるしかない。それでは面白くない。

RPAにしても今はフリーのソフトがあります。だから悩む前にやってみることです。成功しようと思ったら失敗しないと成功はない。1個成功する、その裏には10個くらいの失敗がある。失敗しながら上手く行く。だから、「面白そうだな」と思ったら躊躇せずやってみることです。

ただし、繰り返しになりますが、大火傷しないように少ない投資や少ない作業量で始めることです。

──最後に、2018年の展望を教えてください。

小林製薬のような日用品業界では、今まではIT技術が会社の業績を大きく左右する、ということはあまりなかったと思いますが、2018年からはITを上手く使った企業が間違いなく業績を上げて行くと思います。

経営戦略の柱のひとつにIT戦略が入って、それを実行することが会社の業績を左右するような仕事をすることですね。

──ありがとうございました。

藤城克也(ふじしろ・かつや)

小林製薬株式会社グループ統括本社業務改革センターセンター長。1985年、小林製薬株式会社入社。2006年、グループ統括本社 人事部 部長、2008年、グループ統括本社 コーポレートブランド推進室 室長、2009年、グループ統括本社 ビジネスシステムセンター業務改革部 部長、2011年、グループ統括本社 ビジネスシステムセンター 業務改革部 部長(IT担当)、2014年、グループ統括本社 経営企画部 部長、2016年より現職。