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業界

【インタビュー】PARCOが挑む店舗改革!3Dスキャナの導入で次世代型のエンタメ接客へ(株式会社パルコ)

※ この記事は 2018年03月12日に DX LEADERS に掲載されたものです。

対象物を複数個所から撮影し、立体的形状のデータを取得する3Dスキャナ。3次元を撮影できるとあって製造業や建設、医療分野などでの普及が目覚ましい。この技術をファッションへ活かすべく国内初の取り組みに着手しているのが株式会社パルコ(※)だ。客のデジタル試着体験をはじめ、ショップスタッフのコーディネートを3Dで映し出すなど、次世代のデジタル接客に活かす構えだ。

ファッションとカルチャーの流行を牽引してきたパルコが、なぜデジタル接客へ挑戦することになったのか。「未来に向けた新しい商業施設や商業空間を創り、さらにICTプラットフォームを充実させて、より多くのお客様とリアルなショップとのコミュニケーションを進めていきたい」と話すのは同社執行役の林直孝氏。近未来型実店舗の構想について詳しく聞いた。
(※)企業名は「パルコ」、店舗・サービス名は「PARCO」

パルコのテナントとお客様をネットでつなげ、接客の拡張をはかる

ショッピングセンターを運営する企業の中でも、パルコは先駆的にICTを導入してきた。また、先端のテクノロジーにも敏感で、2017年にはVRゴーグルを装着しながら買い物ができる「VR PARCO」を期間限定で開設するなど、その動向は常に話題になる。こうした試みを牽引するデジタルトランスフォーメーションの司令塔「グループICT戦略室」を統括するのが林氏。3Dスキャナの導入までの前談について、こう語る。

「パルコでは1995年にホームページを立ち上げ、ネットで店舗情報の配信を開始しました。90年代後半には、メールマガジンをスタートさせ、Eコマースの原型となるようなネット販売もいち早く展開。ネットを通じたサービス提供には、他社よりも早く取り組んでおりました。ところが2012年頃になると、店舗サイトのアクセス数のうち7割近くをスマートフォンが占めるようになり、これからはデジタルネイティブ世代のお客様とのコミュニケーション方法を変える必要があると判断。社内の若手メンバーを中心にして『WEB戦略プロジェクト』の発足にいたりまました。」(林氏、以下同)

株式会社パルコ 執行役 林直孝氏

これを契機に、社内でのデジタル接客の議論が活発に。2013年には、客が求める“インターネットを介した交流の在り方”を実現する「WEBコミュニケーション部」を結成。以降、テクノロジーを活用した店舗運営を目指す、デジタルトランスフォーメーションの動きが加速したという。

「パルコは小売業と不動産業のハイブリッド型の事業を展開しています。販売はご出店テナントの役割となりますので、我々ができるデジタルトランスフォーメーションのコアは、店舗のテナントスタッフが、『PARCO』という売り場プラットフォームにおいて、いかにお客様とのコミュニケーションを取りやすいようにするかという部分です。その一環として、2013年から、お客様とテナントのスタッフが24時間コミュニケーションできるオムニチャンネルプラットフォームを、『24時間PARCO』というコンセプトの下で進化させてきました。」

店頭での販売は営業時間の制約がある。そこがEコマースの優位点にもなるわけだが、客にとっての“負”を補完するためにも、24時間いつでも必要な時にコミュニケーションが取れて、さらに買い物もできるWEBプラットフォームを独自に進化させてきた。また、AIやIoTの導入にも積極的だ。

「たとえば、パルコが運営するスマートフォンアプリでは、ショップが配信するブログ記事をクリップ(お気に入り登録)する機能を設けています。このデータを分析してみると、10クリップされたブログのショップに、50日以内に一度は来店して買い物する割合が多いことが分かりました。つまり、たくさんクリップされるブログ記事を配信できれば、来店数も比例することになります。そこで記事の精度を上げていただくため、2016年にAIを導入。お客様が閲覧したブログ記事を分析して、興味関心をもっていただけそうなセールや特典情報のメンションにつなげるようにシステムをアップデートしました。

また、現在実験的にIoTセンサーを『PARCO_ya(パルコヤ)上野』に配備。これにより、たとえば周辺の気温や降雨状況などと組み合わせて、お客様がどういう時に来店しやすいかを分析。オンライン会員のお客様のGPSと連動させて、たとえば客足がにぶる雨の日には、PARCOの周辺にいるお客様だけに通知を送るなど、情報のカスタマイズ化によって来店を促進します。また、スタッフ配置など各ショップの運営に当たってのフィードバックにも役立てていただいております。」

3Dスキャナで実店舗の魅力を最大化させていく

そこで、本題の3Dスキャナである。これまでの話からも読み取れるように、PARCOはあくまでも実店舗に軸足を置いている。そのため、デジタルトランスフォーメーションの目的は、ショッピングを「ネットへスライドさせるため」ではなく、「実店舗に足を運んでもらうため」と位置付けているという。

「スマートフォンでの商品閲覧や注文も容易になりましたが、UIが充実しても視覚的にはまだまだ不十分だと感じています。やはりリアルなショッピング体験とは、かけ離れていると思います。特にパルコのお客様は、ショップスタッフのファンもたくさんいらっしゃって、会話を楽しみに来店されるケースも多いです。そこで、たとえばショップスタッフが事前に洋服を着用し、3Dスキャナで撮影して画像をディスプレイに映し出すことができれば、売り場での体験がより楽しくなると思います。」

また、ネットでは実現できない試着についても、3Dスキャナを用いることで、これまでにない体験にもつなげられるという。

「お客様が気に入った服や、ショップスタッフがコーディネートした服を着て、店舗の3Dスキャナで360度全身を撮影していただくこともできます。ご自身のスマートフォンからでQRコード専用サイトにアクセスすると3D画像を閲覧も可能。そのデータをSNSに投稿することも可能です。3D画像であれば、一枚の画像だけで全体が把握できるので、よりリアルに商品を体験していただくことができるんです。そのため、商品提案が今のリアルな店舗と同じようにできます。」

スキャンした3D画像(スクリーンショット)

スキャンした3D画像(スクリーンショット)

接客は極めてクリエイティブな仕事。売り場×テクノロジーでさらなる高みへ

さらに、3Dスキャナの導入にあたって運営協力している株式会社Psychic VR Labが、目下3D画像を動画に加工するソフトウェアを開発しており、ゆくゆくはそちらも導入していきたいという。

「撮影するのは静止画の3D画像ですが、それを組み合わせることで、人間の自然な動きでポージングをしているような動画を作成することができるようになります。たとえば、ショップスタッフが動画を撮影しようとすると、労力や費用といったコストがかかります。こうしたテクノロジーの進化で動画を撮らなくても、動画を作り、お客様に喜んでいただける。テクノロジーをうまく組み合わせて使うことで、接客を拡張していくことで、ショップスタッフの価値もさらに高まると思います。」

VRや3Dスキャナ、さらには3D画像を動画にしてディスプレイするなど、テクノロジーを駆使して売り場を刷新していきたいという。しかし、Eコマースが群雄割拠しているこの時代、あらためてリアルの価値について問い直してみると、次のような答えが返ってきた。

「パルコはファッションだけではなく、これまで音楽やアートといったカルチャーもリアルな場で発信してきました。そのため、売り場をもっとエンタメ化させて、ひとつのカルチャーとして進化させていきたいと考えています。これまで、人以外の要素として、物質的なもので売り場の魅力を構築するしかありませんでした。しかし、画像や映像を活用することで『PARCOの売り場でしか体験できない』と思っていただけるような場所を創り出し、お客様のショッピング体験を進化させていきたいと考えています。また、接客は極めてクリエイティブな仕事です。その魅力をよりたくさんのお客様に知っていただくためにも、どんなテクノロジーとならシナジー効果があるのか、模索を続けていきたいと考えています。」

欲しいものを手に入れる場としてだけではなく、体験する喜びも提供してきたパルコ。消費動向の変化によって、百貨店をはじめ苦境に立たされる小売店が絶えない中、パルコは最先端のテクノロジーをひっさげてリアルなショッピングエクスペリエンスをさらなる高みへと推し上げてようとしているようだ。パルコ発の近未来的な売り場が広まっていくことを期待したい。

取材・文:末吉 陽子