メイン コンテンツへスキップ
業界

【宇宙飛行士・山崎直子氏インタビュー】2018年は日本でも宇宙ビジネスが飛躍する!

※ この記事は 2018年05月04日に DX LEADERS に掲載されたものです。

山崎直子氏は、国際宇宙ステーション(ISS)で数々のミッションに関わった宇宙飛行士だ。いまも内閣府宇宙政策委員会など、さまざまなプロジェクトの活動を通して「宇宙」に関わっている。

その山崎氏は「2018年は間違いなく、日本での宇宙ビジネスが飛躍する年」だという。
民間企業が本格的に「宇宙」をビジネスにする時代がやってきた。いよいよ本格的にスタートする日本の宇宙ビジネスの展望を山崎氏に聞く。

宇宙飛行士 山崎直子氏

宇宙産業を2030年までに2.4兆円へと拡大させる

──山崎さんのメインのお仕事のひとつである、内閣府宇宙政策委員会の活動を教えてください。

日本において宇宙ビジネスの拡大を目指す「宇宙活動法」と、商業衛星による画像の利用や管理を規制する「衛星リモートセンシング法」の2つの法律が2016年11月に成立しました。

「宇宙活動法」の制定により、民間企業であってもロケットを打ち上げたり、人工衛星を打ち上げることができるようになり、2017年11月から打ち上げを計画している民間企業の申請受け付けが開始されています。

また、宇宙産業を政府として盛り上げていこうという『宇宙産業ビジョン2030』を2017年5月に公表しました。

これは、第4次産業革命が進行するなかで、今ある宇宙産業を2030年代早期に2倍に伸ばしていきましょう、というものです。今まで宇宙産業を支えてくれていた企業はもちろんのこと、スタートアップ企業や、今まで宇宙に関係のなかった企業でも新規事業として「宇宙」を視野に入れてもらいたい、という思いがあります。

──2倍というのは具体的にどれくらいの経済規模になるのでしょうか?

現在、ロケットや人工衛星といったコアな産業と、それらを活用したサービス産業を含めておよそ1.2兆円あります。
これを2倍の2.4兆円に拡大しようというものです。

──新たに宇宙産業に参入しているのはどんな企業なのでしょうか?

堀江貴文氏が推進している、小型ロケットの開発をミッションとするインターステラテクノロジズ、超小型衛星等を活用するアクセルスペース、それにスペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去することを目的としたアストロスケールといった企業があります。最近ではキヤノン電子、IHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行の4社合同で商業宇宙輸送サービスの事業化する、新世代小型ロケット開発企画社が2017年8月に発足しました。

また、宇宙開発スタートアップのispaceは2017年12月に約100億円の資金調達をしました。この金額は宇宙関連スタートアップとしては世界最大規模です。ispaceは独自開発による月着陸船での「月周回」と「月面着陸」の2つの月探査をミッションとしています。

──ispaceはGoogleの月探査レースにエントリーしていましたね。

そうです。Googleがスポンサーとなり、XPRIZE財団によって運営される月面探査の国際レースのファイナリストとして、5チーム残っていたうちの1つ「HAKUTO」の中心企業です。ロケットを打ち上げるインド宇宙研究機関との調整がつかず、2018年3月31日の期限までに打上げることは断念する声明を2018年1月に発表しています。

ちなみに、他のチームも期限までの打上げの目処が立たず、Google Lunar XPRIZEは勝者無しとなっています。しかし、過程で培った蓄積をもとに、今後も挑戦し続けて欲しいですね。

──今後の挑戦に期待したいですね。その他の企業はありますか?

今まではロケットなど、エンジニアリング的なものを開発して行く動きが多かったのですが、それだけでなく、宇宙で集積されたさまざまなデータを活用し、日常の生活に結び付けよう、という企業もあります。

ひとつはウミトロンといい、人工衛星から地球の海洋を観察をし、海の温度や海中の養分を測ることで養殖業を支援するミッションに取組んでいます。そのことで養殖の餌代を1/3に減らすことが期待されています。

──スマート農業としてGPSを利用したトラクターが自動的に畑を動いてくれることも行われていますね。

GPSの活用についていうと、日本の準天頂衛星システム「みちびき」が2018年から4機体制で運用を開始します。現在のGPSでは10m程度の誤差が出ますが、「みちびき」の測位データを活用すると誤差が数cmと、飛躍的に精度が向上します。
今後、自動車の自動走行など、さまざまな運用範囲が広がると思います。

──「宇宙」と聞くとまだ、縁遠いもののように感じますが、多くの企業が取り組んでいるのですね。

はい。まだまだ未開の可能性も大きいですが、エンターテインメント要素を盛り込んで、人工衛星で流れ星をつくるエールも2019年に実験を計画していますし、人工衛星のデータはIoT技術とも親和性が高いので、さまざまなな観点からの宇宙利用が考えられると思います。
成功事例が出てくれば、今後も取組は増えて行くと思います。そして、2018年は今まで取り組んできた企業が成果を出していく年になると思います。

宇宙産業への参入も「夢」ではない

宇宙飛行士 山崎直子氏

──宇宙で集積されたビックデータの活用も進むといわれます。

今、宇宙データをオープンプラットフォーム化しましょう、という計画を立てています。これまでの人工衛星のデータは膨大にありましたが、それはJAXAが持っていたり、気象庁や経産省が持っていたりとバラバラでした。また、そのデータも専門家でなければ使いこなせないものでした。
それをもっと広く活用できるようにしましょう、という取組みを経産省が2018年度からスタートさせるべく取り組んでいます。

──宇宙産業に参加したい場合、どのようにすれば情報を得ることができるのでしょう?

2016年に設立された「スペース・ニューエコノミー創造ネットワーク(S-NET)」で情報を得ることができます。S-NETは内閣府が主体となって、宇宙に関心のある企業や団体が集まって情報交換を行ったり、各地でイベントを開催したり、勉強会をやりましょう、ということを活動内容としています。

同じく2016年に開設された宇宙ビジネスに取り組む方々に向けたポータルサイト「宇宙ビジネスコート」でも、内閣府と連携を取りながら、新規事業として宇宙産業に参入したい企業に向けて、アドバイスをきめ細かくやって行こうとしています。

スタートアップ企業に対しては、資金調達もサポートするようになっています。そういったものを活用して頂きながら、情報収集して欲しいと思います。また、JAXAにも新事業促進部や国際宇宙ステーション「きぼう」利用ネットワークがあり、そちらでも技術面のサポートを積極的に行っています。

これまで国家組織ではなかなか民間企業をサポートする、ということは立場上できなかったのですが、これからはむしろ逆に宇宙産業支援として、どの企業にも公平にサポートしようという動きが進んでいます。

──それらを聞くと「2030年までに2倍」というのも実現しそうな気がしてきました。

ベンチャーでスタートアップするにしろ、新規事業にしろ、どんどん宇宙に関わって欲しいと思います。

日本としても宇宙産業支援を積極的にやって行こう、アドバイスする体制も整えて行こう、としているところなので、2018年はベストタイミングだと思います。興味があるようなら、ぜひ、まず一歩、行動に移して欲しいと思います。

その先駆けとして宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster2017」を2017年に初めて開催しました。300点以上のさまざまなアイディアが集まりました。ここでは、ただのアイディア出しに止まらず、実際の事業化実現まで積極的にフォローしようということで、選考の過程からスポンサー企業がメンターとして伴走し「ここをこう改良するといいビジネスになるのではないか」などとアドバイスをし、提案を練り上げ、事業化を図ることを行っています。

──それは興味深い取り組みですね。

この取り組みはまだ、スタートしたばかりで、事業の実現はまだですが、スポンサー企業は事業化しようと本腰を入れているので、近々成果が出ることを期待しています。また、第2回目の開催も決定しています。

──賞金を出すだけというコンテストではなく、事業化を目指す取り組みなんですね。

「S-Booster2017」の大賞は「超低高度衛星搭載ドップラーライダーによる飛行経路・高度最適化システム構築」というものです。飛行機はたくさん燃料を使いますが、風によって大きく燃費が変わるのだそうです。
そこで、風を予測する「ドップラーライダー」を利用した、特殊なセンサーを人工衛星に載せてデータを取ることによって、航空機が最適な飛行経路を選択し、飛行時間の短縮、コスト削減を可能とするアイディアです。航空機の燃料を1%削減することができると、1年間の経済効果は3000億円以上になるとのことです。

もちろん、二酸化炭素の削減にもつながります。それを考えられたのはANAで運航計画を立てる部署にお勤めの女性です。もともと燃費に対して問題意識があった方で、コンテストのことを知り、試しに応募してみたら選考に残り、メンターとブレストしながらアイディアを具体化したそうです。

──思い付きでもいい、ということですね。

はい。私は「S-Booster2017」では審査員のひとりとして関わっていましたが、今後もそうした活動を応援したいと思っています。

──金井宣茂氏がISS(国際宇宙ステーション)で活躍中と、宇宙の話題は豊富ですね。

2020年代後半に本格化するであろう月の国際有人探査計画に、日本も参加する方針を打ち出しています。
2018年3月には日本で、宇宙探査に関する大規模国際会議「国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)」が開催されます。これは、将来の国際共同宇宙探査について検討する会議です。前回はアメリカのワシントンで行われ2回目になります。日本がホストとなって重要な会議が行われることになります。

──山崎さんの今後は?

私としては宇宙に行く人が増えて欲しい。宇宙が産業として身近になっていくなかで、実際に宇宙に行く人も増えて欲しいと思っています。

2018年はアメリカの宇宙輸送を業務とするスペースXや、Amazon.comの設立者であるジェフ・ベゾス氏が設立した航空宇宙企業ブルーオリジンなどが有人飛行を計画しています。
ヴァージン・グループ会長のリチャード・ブランソン氏が設立した宇宙旅行ビジネス企業ヴァージン・ギャラクティックの宇宙船の運航も早期の実現が期待されます。
その意味では2018年は間違いなく大きなステップとなると思います。日本でもさまざまなチームが挑戦を進めています。

私自身は、官・民・学の連携を図ったり、宇宙とさまざまな分野をつないだり、多くの人が宇宙に興味を持っていただけるよう宇宙教育に力を入れたいと思っています。空や宇宙を観光資源としても活用する「宙ツーリズム」の推進協議会の立ち上げに協力したり、日本ロケット協会「宙女」の委員長をつとめたりもしています。

有人宇宙船を日本が運航する、という日もきっと来るでしょう。そのための法律の整備やシステムはまだ日本では整っていませんが、そうした整備にも関われればいいなと思っています。宇宙を通じて、さまざまな人をつないでいけたらいいですね。

──ありがとうございました。

山崎直子(やまざき なおこ)

1970年、千葉県松戸市の生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。卒業後、宇宙開発事業団に入社。国際宇宙ステーション(ISS)の開発業務に従事する。2010年4月5日(日本時間、以下同)、スペースシャトルディスカバリーに搭乗し、ケネディ宇宙センターから打ち上げ、7日にISS到着。数々のミッションをこなす。17日にディスカバリーでISSを離脱し、20日ケネディ宇宙センターに帰還した。2人目の日本人女性宇宙飛行士。