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業界

放送業界の DX を加速させる鍵は〝クラウド化〟Inter BEE 2022 出展レポート

2022 年 11 月 16 日〜18 日の 3 日間、日本マイクロソフトは幕張メッセで開催された「Inter BEE 2022」に出展しました。同イベントは、今年で 58 回目を迎える、映像・音・通信のプロフェッショナル展。放送事業者や映像制作会社など、810 社/団体が参加し、3 日間で 26,901 名が来場しました。

リアル展示会『Inter BEE 2022』のメインモニュメントの写真

日本マイクロソフトが出展したのは、ICT/クロスメディア部門です。“Empowering your future of creativity, content, and experiences”(創造性・コンテンツ・エクスピリエンスの未来に力を)をテーマに、展示エリア内には、「Power Platform」と「Power BI」を紹介するブースに加え、Azure を活用したソリューションを提供するパートナー企業 4 社のブースを設置。さらに、ミニシアターを設け、会場内を歩く方々へ各ソリューションのアピールを行いました。

マイクロソフトブースの壁面とネオンサイン

ディスプレイを指しながら説明する男性

日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 通信メディア営業統括本部
インダストリーアドバイザー 大友 太一朗は、今回の展示と放送業界が抱える課題について、次のように話します。

「今回は放送局業務のデジタル化をご支援するソリューションとして、ローコード/ノーコードで業務自動化や、業務アプリケーションの作成、Web サイト制作、データの可視化などを簡単に行える『Power Platform』を展示しています。放送局の業務は、紙を使って何かを管理していたり、メールで Excel データをそのまま送り承認をしてもらったりなど、まだまだアナログな部分がたくさんあります。『DX の民主化』などと言われますが、現場の方々が自らデジタルを活用できる状態、それを目指しています」。

また、フジテレビでの実例を交えながら、DX の民主化に向けた取り組みについて、次のように語ります。

「お客様からは『DX といっても、何から手をつけていいのかわからない』との声も耳にします。そのため、我々としては、Power Platform を販売して終わりではなく、伴走してサポートすることも重視しています。例えばフジテレビ様の場合、はじめに現場の方々に、普段どのようなアナログ業務があるかを全部列挙してもらいました。その上で、『その業務はどれくらいの頻度で発生するか』『もしデジタル化できたら、コストや時間をどれくらい削減できるか』に基づき、どの業務をデジタル化していくと最もインパクトがあるかをワークショップ形式で一緒に考え、特定していきました。一つずつ業務をデジタル化していくことで、非効率的な業務を減らし、本来時間をかけるべき業務、例えば番組制作やコンテンツ作りに、より多くの時間を使えるようにご支援をしていきたいと考えています」。

青色のマイクロソフトロゴ入りTシャツを着てカメラに向かってほほ笑む社員

Power BI のブースでは、日本マイクロソフト カスタマーサクセス事業本部 シニア クラウド ソリューション アーキテクト 畠山 大有が、Power BI を使ったデータ活用のデモンストレーションを行いました。畠山は、放送業界におけるデータ分析について、次のように語ります。

「放送業界の方達は、視聴率だけを指標としてきたと思うんですが、インターネットや動画サービスが普及してきている中、時系列に沿った効果測定が求められています。調査会社などに外注しているケースがほとんどだと思いますが、データの結合により Excel でできることも実はたくさんあることを知ってもらいたいです。ただ、Excel だとグラフ同士の比較検討が難しい部分があるのも事実です。そこで、直感的な操作ができるだけでなく、クラウドとも連携もしやすい Power BI が活躍します。まずは、皆さんがお持ちの Excel や Power BI を使って、視聴者がどういう動きをしているかを時系列で追っていけるような、その入り口のところをしっかり見ていただきたいなと思い、お話をしています」。

また、今後の放送業界におけるデータ分析の在り方について、畠山は次のように続けます。

「今後、一人ひとりがデータを分析する時代が来ると思っています。しかし、データはグラフにして初めて見えてくるもの。まずは、データの見方を知ることで、放送の効果や、その先の派生を見るきっかけにしてもらいたいです」。

各種ディスプレイを前に自社ソリューションをお客様に説明する男性

Azure を活用した伝送ソリューションを提供する Haivision。同社 セールスディレクター 山本 克己氏は、今回展示したソリューションについて次のように説明します。

「Azure 上に IP のルーティングのスイッチャーアプリケーションを載せ、主に放送ネットワークや配信用に向けたソリューションを提供しています。世界で使われている『SRT プロトコル』により、国内は元より海外国内間では Azure のバックボーンとパブリック・インターネットを組み合わせることにより低遅延・高品質な映像伝送を実現しています。またプロダクション向けに開発した『SST プロトコル』では単なるストリームだけではなく、スタジオから現場のカメラのコントロール、タリーや同じ回線を使って現場ではスタジオからのリターンを見ることができます」。

展示ディスプレイの前でカメラに向かって微笑む男性

世界中のメディアやクリエイターが活用している Avid のテクノロジーにも、トータルプラットフォームとして Azure のクラウドが使われています。同社 ソリューションズ・アーキテクトの粟谷 充氏は、今回の展示について次のように説明します。

「今回は、弊社の『MediaCentral』という総合ワークフロープラットフォーム、『MediaCentral | Stream』という IP ストリームソリューション、そして『Media Composer』というビデオ編集ソフトウェアを併せ、トータルワークフローとして展示を行っています。放送局とポストプロダクションのお客様から、コロナ禍におけるリモート環境を整えたいとご相談いただくことが多く、オンプレミスのハードウェアを使用していた部分をいかにクラウドにするか、どう繋ぐかをトータルでご提案しています」。

カメラに向かって微笑むスーツを着た二人の男性

マイクロソフトとグローバルレベルでのパートナーシップ契約を結んでいる Harmonic 社。同社 リージョナル・セールスマネージャー 瀧野 信吾氏(写真左)は、ソリューションの内容について次のように説明します。
「我々が提供しているのは、『VOS®360』という Azure 上で稼働する、映像配信プラットフォームです。ソース映像から視聴者のスクリーンまでの映像処理を全てクラウド上で行います。VOS360 は単なるクラウド上で稼働するソフトウェア提供ではなく、End-to-end でオーケストレーションされたワークフローを備え、24 時間 365 日のプロアクティブなサポートを含む SaaS として提供しています」。

Harmonic 社のサービスは、世界中の大規模なスポーツ・ライブイベントでも数多く活用されています。同社、セールス・ディレクター 川村 雅也氏(写真右)は次のように語ります。

「今年の米国で開催されたスーパーボウルを、視聴者に向けて我々のプラットフォームでライブ配信をさせていただきました。ピーク時には 460 万ユーザーが同時アクセスする状況でしたが、Azure と CDN を活用し、高画質なライブ映像を、安定且つ、低遅延での配信を実現しました。また FIFA W 杯 2022 では、カタールから各国への VOS360 で映像伝送を行い、さらに映像を受けた複数のお客様が VOS360 を使って 4K HDR でストリーミング配信する予定です」。

カメラに向かって微笑む男性

マイクロソフトは、2022 年 6 月に Xandr の事業買収を完了し、広告市場に対してアドテクノロジーソリューションを提供していくことになりました。今回 Xandr が展示したのは、放送局向けプラットフォーム。Xandr Japan マネージング ディレクター  城西 將恒氏は、ソリューションの内容について次のように説明します。

「広告会社用のソリューションであるデマンドサイドプラットフォーム(DSP)と、放送局など媒体社向けのソリューションであるサプライサイドプラットフォーム (SSP)の両方を市場に向けて提供しています。今回は放送局様の持つ広告在庫に関する収益最適化をする SSP や、広告配信専用のアドサーバーに関する案内をしています。特にこの 11 月から開始した Netflix 社の広告付きプランに関しては、マイクロソフトがグローバルパートナーとして選ばれ、広告のオペレーションに深く関与しています。この Netflix 広告には我々の SSP 及びアドサーバーが採用されており、お陰で多くの放送局からの関心も非常に高くなっています。今後、例えば Azure チームと協力して販売戦略を構築し、放送局に向けたマイクロソフトとしてのトータルソリューションパッケージを提供していくことが可能であると考えています」。

ミニシアターでは放送・映像業界の具体的な DX 成功事例を紹介

ミニシアターブースでは、Haivision 社の「今だからわかる SRT と SRT に必要な Haivision 対応製品」、テレビ朝日の「全英オープンゴルフでの Haivision HUB クラウド伝送」、Avid 社の「Avid in the Cloud〜STR ストリーミングのインテグレーション〜」、Harmonic 社の「世界最先端のフルマネージド・クラウドネイティブ・ライブストリーミング SaaS VOS360 ご紹介」、Xandr 社の「OTT/CTV における広告マネタイズ最前線」のセッションを開催。

日本マイクロソフトは「脱・秘伝の Excel -手持ちデータを自分で活用できるようになろう-」「アナログ業務をローコード/ノーコードで超効率化」と題する 2 つテーマに関するセッションを行いました。

その中から、事例セッションであった、テレビ朝日の「全英オープンゴルフでの Haivision HUB クラウド伝送」、日本マイクロソフト「アナログ業務をローコード/ノーコードで超効率化」の概要を紹介します。

セッションを行うスピーカーの男性

テレビ朝日では、コロナ禍において海外中継の課題を抱えていました。以前のように大勢のスタッフが現地に行くことが難しくなり、極力少人数で制作を行わなくてはならならい状況になったといいます。そこで、Azure クラウドを用いた Haivision HUB を導入し、リモートプロダクションに切り替えました。テレビ朝日 技術局 高田 格氏は、導入のメリット、今後の展望について次のように話します。

「まず、Haivision HUB での『構築のしやすさ』があります。Web 上で操作するだけで簡単に国際回線を構築できるのはとても便利です。そして、安定したクラウド伝送もメリットの一つ。IP ベースの課題であったインターネット回線の不安定さを低減し、冗長化も図れ、安定した伝送が構築できました。また、回線費用の低コスト化も大きなメリットです。従来の衛星や光ファイバーの伝送に比べると、コストは 10 分の 1 ほどになるのではないかと推察されます。今後もいろいろな展望が考えられますが、例えばクラウド上に仮想スイッチを置き、直接映像信号を入力していって、そのままプログラムを制作したり、受信機を設置して配信エンコーダーに入れる煩雑な手間を省き、そのまま配信プラットフォームに送るといったことも可能だと考えています」。

マイクを付けて講演する女性スピーカー

「アナログ業務をローコード/ノーコードで超効率化」のセッションでは、日本マイクロソフト 通信メディア営業統括本部 アカウントテクノロジーストラテジスト 中村 理沙より冒頭、開発者・IT 人材の不足の課題を挙げ、Power Platform を使い現場の方が新たな開発者となることで DX を加速させることができると話しました。

「昨今、デジタル需要が急増する一方で開発者・ IT 人材の不足が問題視されており、ますます『開発の俊敏性』が求められています。その中で今アプリ開発に求められることは、最新のテクノロジーで開発者の生産性を上げること、そして開発の敷居を下げて現場の人材を新たな開発者にすることです。企業において、改革対象ではあるものの手が付けられていない業務シナリオは、約 1000 以上にものぼると言われています。例えば紙プロセスの継続、エクセルによる情報のサイロ化、シャドー IT の横行などが挙げられますが、これらの後回しにされがちな課題を解決することによって DX が推進されると考えております」。

それらを実現するために、簡単な開発ツールが鍵になると中村は続けます。

「開発を現場に広げるにあたって、開発ツールはできる限り簡単である必要があります。Microsoft の Power Platform は、標準で GUI ベースの簡易な開発画面がございます。加えて、AI で開発をアシストする機能もあり、例えば手書きのスケッチからアプリを作成したり、自然言語の記述によってフローを作成するような機能もございます。つまり、現場の開発者にとって、開発の知識はほぼ必要ありません。むしろ、現場のプロセスに対する課題感や改善意欲に最大の価値があると考えています」。

資料を投影しながら講演する女性スピーカー
マイクロソフトブース前でセミナー開始を待つ聴講者たち

続けて、実際に Power Platform を使い、多くの業務を効率化してきたフジテレビでの事例を、株式会社フジミック アウトソース推進部の石井 佳歩氏が紹介。Microsoft 365 のサービスは 2017 年頃から展開していたものの、Power Platform は IT 部門の一部ユーザーが利用するのみで、現場ではほとんど有効活用されていなかったといいます。そこで、社員の IT リテラシー向上を図るとともに、IT 部門に依存することなく、社員が現場目線で業務改善するためのアプリ開発を可能とする「市民開発者」の育成を目指すことになりました。その取り組みについて、石井氏は次のように説明します。

「今年度から全社的に推進活動を展開し、Power Platform の使い方を説明。実際にアプリ開発を体験してもらう講習会の実施、ナレッジをまとめたポータルサイトの作成等を実施しています。特に成果が大きかったのは、人事部向けに提出する各種申請書のペーパーレス化です。育児休暇の申請、取材費の申請など、人事部に提出が必要な社内申請書が複数ありますが、これまでは Excel ファイルに入力した情報を印刷し、紙の申請書として担当者間で回付していました。テレワークが進む中、『申請書を提出する』『印鑑を押して承認する』ためだけに出社が必要という課題があり、これを解決するため、申請書をアプリ化することとなりました。Power Platform を利用することで、ひと月もかからずにアプリの構築が完了。申請書を提出後、最終部門に受理されるまでの時間が 1 件当たり約 26 分短縮され、4 年間で 1,040 時間もの価値を創出しました。作業時間の短縮以外の効果として、申請書処理のために出社が不要になった、紙の申請書と比較して申請がしやすくなり全社員の利便性が向上したことが挙げられます」。

石井氏は、今後の展望について次のように話します。 「まずは、社内申請書の電子化推進です。現時点では紙の申請書がまだ多数存在していますので、90% の電子化を目指しています。続いて、基幹システムとの連携です。営放システムと基幹システムとのデータ連携を行い、利便性の向上を目指しています。最後に、市民開発者の拡充です。ポータルサイトに事例やサンプルアプリを多数掲載すること、気軽に情報交換ができるコミュニティを作成することを目標としています」。

特別講演 「放送・映像業界がサステナブルであるために」

講演中の講演会場の様子

11 月 17 日には、業界のエキスパートによる多彩なコンファレンス「INTER BEE FORUM」において、日本マイクロソフト パートナー事業本部 クラウドソリューションアーキテクト 大川 高志が登壇。「放送・映像業界がサステナブルであるために」と題して、特別講演を行いました。講演の中で大川は、マイクロソフトのサステナブルへの取り組みを紹介。加えて、先進的な企業の取り組みを例示しながら、これからの放送業界の在り方のヒントを示しました。その概要を紹介します。

講演中のスピーカー

まず、大川はサステナビリティの定義、世界そして日本における CO2 排出量の現状、日本のエネルギー自給率の低さについて言及した後、メディア・エンターテイメント業界において、サステナビリティが求められている理由について、次のように話しました。

サステナビリティへの要求が業界の変革を促進することについて説明するスライド

「サステナビリティは、世界中の役員室や規制当局で“注目のトピック”です。例えば Netflix 様も、2022 年末までに温室効果ガスのネットゼロ排出を達成すると発表しています。なぜ、メディア・エンターテイメント業界の企業が積極的にこのような取り組みをしているかというと、知名度の高さと市場への影響力があるからです。メディア関係の事業者さんは、そのリーチや知名度を活用して、サステナビリティのソリューションや取り組みを、持っているチャンネルで広めていくことができます。また、視聴者の方も、環境に良いエネルギー使って作られている番組への意識や期待が高まっているため、サステナビリティに真剣に取り組むことで、市場ポジションを強化できるわけです」。

「カーボンネイティブ」「ウォーターポジティブ」「廃棄物ゼロ」「プラネタリーコンピューター」の4つの軸について記載されている、マイクロソフトのサステナビリティへのコミットメントと進捗についてのスライド

続いて、大川はマイクロソフトのサステナビリティへの取り組みについて紹介しました。カーボンネガティブ、ウォーターポジティブ、廃棄物ゼロの取り組みについて、次のように解説します。

「マイクロソフトはサステナビリティの先駆者として、2030 年までに『カーボンネガティブ』の達成を目標に、創業年である 1975 年から 2050 年までに出した二酸化炭素を、全部地球上から取り除くと発表しています。また、マイクロソフトの企業活動では、データセンターの冷却やパソコンの製造時に水を使います。その水の使用量以上に地球環境へ水を戻していく、綺麗な水を返していくことに取り組んでいるところです。廃棄物ゼロという観点で言うと、データセンターの中で廃棄物を出さないようにしています。ゴミに出すのではなくリサイクルをして、どんどん作り替えていくことをコミットメントしています」。

そして、このような取り組みを行うマイクロソフトのクラウドなどのサービスを選択することが、企業のサステナブルの取り組みになることを強調しました。

「マイクロソフトクラウドへの移行で得られるカーボン削減効果」についての説明スライド
Microsoft Cloudのコンテンツアイコン集合図

「Azure や Microsoft 365 などの Microsoft Cloud を運用しているデータセンターでは、マイクロソフト自身が投資し研究開発したテクノロジーを駆使し、従来型のホスティング環境やオンプレミスの環境に比べて、最大で 98% のカーボンフットプリントの削減に成功しています。オンプレミスのデータセンターを使うよりも、クラウド使っていただくことで二酸化炭素の排出量を 98% 削減できるんです。メールの送受信や Web サイトの表示など、同じ仕事をする場合でも、クラウドを使うことでエネルギーの効率化が可能です。つまり、マイクロソフトの各種クラウドサービスを使っていただくだけで、市場でニーズが高まっているサステナビリティの取り組みに皆さんも一緒に加わっていただくことができるんです」。

「2030年までにカーボンネイティブ」「2030年までにウォーターポジティブ」「2030年までに廃棄物ゼロ」「生態系の保護とプラネタリコンピューターの構築」を詳細とするこれからのマイクロソフトのサステナビリティへの姿勢を説明するスライド

最後に、大川はこれからのマイクロソフトのサステナビリティへの姿勢について、次のように語りました。

「まだサステナビリティの話は〝自分ごと〟にしにくい部分もあるかもしれません。思い出す時は、おそらく地球規模での環境に対するイノベーションが必要になっている瞬間だと思うんです。マイクロソフトは、その日が来るまでずっと今日ご紹介したようなテクノロジーをどんどん進化させて、皆様のビジネスにお役に立てるようにしていきます。今日のプレゼンテーションを見ていただいたことをきっかけに、映像・放送業界のサステナビリティについて考えていただくきっかけとしていただければ幸いです」。