ビニールハウスで稼働する吊り下げ式ピーマン自動収穫ロボット「L」

Microsoft for Startups 活用企業紹介: 第 2 弾

日本マイクロソフトは、テクノロジで農業課題を解決するベンチャー企業「AGRIST 株式会社 (以下アグリスト)」を Microsoft for Startups に採用。自動収穫ロボットを通して得たデータの活用や、日本マイクロソフトのワールドワイドなネットワークを生かしたコラボレーションなど、アグリストが目指す「100 年先も続く持続可能な農業」の実現に向けたサポートを展開していきます。
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アグリストは設立 3 年目を迎えた 2022 年初頭に「エンジニア・ドリブン」というポリシーを掲げ、これまで以上にエンジニアが意思決定に関わる、テクノロジ ドリブンな企業を目指すことを宣言しています。

今回のインタビューにはその一環として、これまで多くのメディアに対応してきた代表取締役兼最高経営責任者の齋藤氏に加えて、エンジニアの高辻氏と清水氏が同席。エンジニアの立場から農業改革にかける思いを語ってくださいました。

Microsoft for Startups x「AGRIST 株式会社」
株式会社 代表取締役兼最高経営責任者 齋藤 潤一 氏

AGRIST 株式会社
代表取締役兼最高経営責任者 齋藤 潤一 氏

AGRIST 株式会社 最高事業計画責任者 高辻 克海 氏

AGRIST 株式会社
最高事業計画責任者 高辻 克海 氏

AGRIST 株式会社 AI エンジニア兼プロジェクトマネージャー 清水 秀樹 氏

AGRIST 株式会社
AI エンジニア兼プロジェクトマネージャー 清水 秀樹 氏

ビニールハウスで稼働する吊り下げ式ピーマン自動収穫ロボット「L」

■人口 17,000 人の町発の農業テックカンパニーとして注目を集める

-アグリスト設立の背景と目標についてお聞かせください。

齋藤: 私はもともとビジネスで地域課題を解決することを目的に活動しており、全国の起業家育成に携わっていました。アグリストの設立は 2019 年。人口わずか 17,000 人の町、宮崎県新富町の役場が設立した地域商社「こゆ財団」の代表理事を務めていた際に、「儲かる農業研究会」と称した勉強会で地域の農家の皆さんと対話するなかで「自動収穫ロボットがほしい」という要望を受けたことがきっかけです。

アグリストは、「100 年先も続く持続可能な農業を実現する」をビジョンとして、自動収穫ロボットの開発からその運用で得られたデータの活用、ノウハウの世界展開といった事業を通して、食料課題を解決して全人類の幸福に貢献するテックカンパニーを目指しています。

設立 3 年目を迎え、おかげさまで吊り下げ式ピーマン自動収穫ロボット「L (エル)」の開発を起点とする私たちの事業は多くの評価をいただいています。2021 年末時点で国内のビジネス プラン コンテストで 12 の賞を受賞、経済産業省の「J-Startup2021」や JA グループの「JAアクセラレーター」をはじめとする行政や自治体の支援プロジェクトにも数多く採択いただき、AEON や ENEOS など大手企業とのコラボレーションも進行中です。

参考:

受賞歴

農業ロボット開発の AGRIST 株式会社は経済産業省「J-Startup2021」に選定されました

スマート農業で JA グループと連携、JAアクセラレーターに採択されました

農林水産省のスマート農業技術の開発・実証プロジェクトに採択! 自動収穫ロボットを活用した施設園芸野菜の生産管理体制構築を目指します

イオン宮崎店でのピーマン自動収穫ロボット「L」の展示・実演に関するお知らせ

吊り下げ式ピーマン自動収穫ロボット「L」の収穫の様子

■農家の声から生まれた自動収穫ロボット「L」

-「L」の開発に至った経緯と開発コンセプトについてお聞かせください。

齋藤: 少子高齢化が進むなかで、農家では収穫の担い手不足に伴う規模拡大の機会損失により、収益が上がらずに、さらに担い手が減ってしまうという負のスパイラルが問題となっています。そこでロボットの運用による担い手不足の解消という解決策が求められるわけですが、これまでも農作業を担うロボットが全くなかったわけではありませんでした。ただ、機能が多い分高価格だったり、収穫に特化したロボットがなかったりといった状況で、普及には至っていなかったのです。

農業課題 農業の人手不足による負のスパイラル

齋藤: そこで私たちは、新富町でピーマンを栽培するビニールハウスのすぐ横にロボットの開発拠点を構えて、ピーマン農家の皆さんに徹底的に話を聞くことから開発を始めました。すると「完璧でなくてもいいから、最低限の機能で安価なロボットをつくってほしい」というニーズが浮かび上がってきたんです。それを元に開発したのが、自動で画像認識してピーマンを収穫するロボット「L」です。

「L」は、軽トラックと同程度の 150 万円からという低価格で導入でき、手数料はロボット収穫売上の 10% という設定かつ、販売ではなくレンタルという形で展開します。導入によって 20〜30% の収穫量向上が見込めますから、農家は収益の向上と規模の拡大につなげることができます。2022 年秋の販売開始を予定しており、現在予約を受け付けているところです。

高辻:「L」の名前の由来は、「L 玉」と呼ばれる大きく育ったピーマンだけを採ってくれればいいという農家の方のご要望にあります。L 玉を取り除くことで、単価の高い M 玉の収穫量を増やせる。「極論、L 玉を地面に落とすだけでもいい」という声から、必要最低限の機能で安価なロボットというコンセプトが生まれました。

土のぬかるみや落ち葉などの障害物でロボットが動けなくなる問題を解決するためにワイヤー上を移動する吊り下げ式にしたり、難しい操作やメンテナンスが少なくて済むシンプルな機能に絞ったりといったアイディアも、農家の皆さんの声を徹底的に聞いたからこそ生まれたものです。

清水: 現在は、2021 年 9 月にリリースしたバージョンからさらに実証実験を重ねており、2022 年 1 月に公開された最新バージョンの「L」は、夜間の稼働を実現する高性能の画像認識 AI や、自宅からでも操作できる遠隔操作機能などの実装、俯瞰で見られるカメラの追加やロボット アームの改良などによって、より効率的な収穫が可能になりました。

自動収穫ロボット「L」を活用する農家の方々

■農業×テクノロジが秘める大きな可能性

-2019 年の会社設立以来、スピード感を持って開発に取り組まれています。その原動力はどこにあるのでしょう?

高辻: 私にとって一番大きな原動力は、協力していただいているピーマン農家さんの存在です。アグリスト入社以前も農家の人手不足という一般的な認識は持っていましたが、実際に農家の皆さんと関わり農業の現実を目の当たりにしたことで、皆さんの危機感を直接肌で感じました。「これからの農業には絶対にロボットが必要」という皆さんの期待に応えるために、自分が培ってきたロボットの技術と知見を生かしたいと思っています。

清水: 私も、自分の得意な AI やロボットという分野で皆さんの役に立つものを少しでも早く世に送り出したいと考えています。AI やロボットによる農業改革はまだどこも成功していないからこそ、私たちがやる意義がある。やってやろうと、高辻たちとはよく話し合っています。

高辻: 農業という分野は、実はとてもロジカルにものごとが進むんです。インプットに対するアウトプットがきちんと出てくる。水やりや肥料、日照などが作物の生育に及ぼす作用を分析すれば、必ず次の打ち手が見えてくるんです。知れば知るほど、検証と改善を積み重ねていくエンジニアリングと農業は相性がいいと感じます。ですから私は、私たちエンジニアが農家の皆さんと協業すれば、きっと新しい農業をつくり出せると信じています。

齋藤: 2 人の話を聞いていただいたとおり、農業という分野はエンジニアがやりがいを持って取り組むには十分な魅力を秘めています。アグリストでは「エンジニア・ドリブン」というポリシーを掲げています。高辻や清水のような熱い思いを持ったエンジニアが、責任を持って重要な意思決定を行える組織に進化することで、世界で勝負できるレベルの開発の加速と品質の追求、確かな生産体制の構築を推進していきたいと考えています。

■ともにグローバル マーケットを目指すパートナーとして

-Microsoft for Startups への採用を機に、日本マイクロソフトとのコラボレーションも進んでいるそうですね。

齋藤: はい。私たちは世界の農業課題を解決することを目指し、世界の市場に出ていく前提で事業を展開しているので、グローバルなマーケティングに秀でている日本マイクロソフトとのコラボレーションには大きなメリットを感じています。Microsoft for Startups で手厚いサポートを受けられること、そしてロボットの運用で集めたデータを、クラウドをつかって全世界に展開していくというゴールの共有ができたのも大きかったですね。なにより日本マイクロソフトの皆さんが社会課題の解決に向けた熱意を持っている点に共感しています。現在、両社のエンジニアがディスカッションしながら、私たちのサービスを世界展開するうえで必要な機能やシステムを構築しているところです。

日本マイクロソフトとのコラボレーション

清水: ディスカッションを始めたのは 2021 年の夏頃でした。年末までの数か月間、2 週間に 1 度のペースで、私たちが思い描いているデータ ドリブンの仕組みやロボットの活用方法を、日本マイクロソフトのサービスを使ってどのように実現できるかを話し合ってきました。

その間、さまざまなサポートを受けながら、実際にデータベースの構築を行うなど多くのインプットをさせていただいたので、これからはいよいよアウトプットのフェーズに入るところです。まずは Azure IoT Central を使った、ユーザーがスマートフォンからデータベースを見られる仕組みづくりや、Azure Communication Services を活用した遠隔機能のロボットへの実装、Microsoft Power BI を用いたデータ分析ツールの構築などを考えています。

窓口担当の方だけでなく、現場で活躍されているエンジニアの方にもディスカッションにご参加いただいたり、日本マイクロソフトのパートナー ネットワークから協力企業をご紹介いただいたりと、思っていたよりも手厚いサポートに私たちへの期待の大きさを感じています。まだ未熟な部分はありますが、しっかり期待に応えていきたいと思います。

ロボットの稼働に最適化されたビニールハウスの開発

■世界中の子どもたちがお腹いっぱい食べられる社会を目指して

-今後のアグリストの展開についてお聞かせください。

齋藤: アグリストは 2021 年 10 月に「L」による収穫効率、収穫量、収益の向上効果を通年の営農を通して実証・公開することを目的に、農業法人「AGRIST FARM株式会社」を設立しました。今後、全国に農場を展開して私たちの次世代農業を公開していく予定です。

前述のとおり「L」は今年の秋から納品を開始します。また来年秋ごろにはきゅうりの収穫ロボットの販売開始を予定しています。トマトの収穫ロボット開発にも取り組んでおり、数年かけて今よりも格段に大きな市場に規模を拡大していく予定です。そしてその先には世界展開を見据えています。

その計画に伴い、現在、ロボットの稼働に最適化されたビニールハウスの開発を進めています。このビニールハウスとロボットをパッケージにすることで、さらに効率的な収穫を実現することができます。

さらにこのロボット専用ビニールハウスは、ENEOSホールディングスとの協業により、加温ボイラーの重油削減や再生可能エネルギーによる発電など、低炭素社会の実現に貢献する機能を備えています。環境に配慮したシステムは世界的な需要を見込めますし、「100 年先も続く持続可能な農業」につながる大きな一歩となるはずです。

清水: 技術面の展望としては、現在、AI とクラウドを用いたデータ分析を進めています。今後ビッグデータを集積して、収量の変化予測や病害虫の発生を未然に防ぐ仕組みなどの確立を目指します。これまでの農業では勘と経験を重視する手法も多かったのですが、私たちの農場でデータを蓄積・分析することでその手法を検証し、そのうえで標準的な手法を確立できれば、農業全体の発展に貢献できると考えています。

また、収穫率を最大化するための OS を開発中です。オリジナルの OS を開発する理由は、私たちのプロダクトを世界中に広めるにあたり、ゆくゆくは他社もアドオンしやすい仕組みをつくりたいという思いがあるからです。

これは私の夢でもあるのですが、例えば日本とは環境の異なる海外のエンジニアが、私たちの開発したロボットやシステムを導入し、さらに自分たちの土地に合わせてロボットをカスタマイズしたりビニールハウスを制御したりできるようになれば、世界展開が一気に進みますし、ひいてはその国の食料事情の改善につなげられると思うんです。世界中どこの国の子どもたちも、お腹いっぱい食べられる社会を目指して取り組みを続けたいと思っています。

高辻: ロボットを活用した農業課題の解決は、あくまで最初の 1 歩だと考えています。私たちの目標は、農業とエンジニアリングの掛け合わせを軸にしながら、農業を根底から変革していくことです。農家の皆さんは収益を上げなければいけませんから、大きな変化に伴うリスクを負うわけにはいきません。私たちが実証実験を行える自前の農場を持つことで、農家の皆さんのリスクを引き受けると同時に、皆さんの要望の受け皿となって変革につなげていければと考えています。

齋藤: 収穫ロボットへの遠隔機能の実装により、高齢の方や障がいのある方でも農業に参加できる「農福連携」の可能性が開けます。低炭素の次世代ビニールハウスは持続可能な社会の実現に寄与することができます。私たちアグリストは、日本マイクロソフトをはじめとする周りの力を借りながらテクノロジ ドリブンをさらに推進して、ロボットや AI、エンジニアリングの分野で価値を発揮できる企業に進化し、全人類の幸福に貢献していきたいと考えています。