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業界

デジタル トランスフォーメーションの衝撃 第 9 回

デジタル変革に後れをとる日本企業に求められることとは?

マイクロソフトは 2016 年 10 月から 11 月にかけて、アジアの 13 の国・地域のビジネス リーダーを対象に、最新テクノロジの活用とビジネス変革の現状を調査する「Microsoft Asia Digital Transformation Study」を実施しました。今回は、この調査結果を交えて、デジタル トランスフォーメーションに対する日本企業の取り組み状況を分析していきます。

調査の対象

  • 調査対象の国・地域は、インド、インドネシア、オーストラリア、韓国、シンガポール、タイ、台湾、中国、日本、ニュージーランド、フィリピン、香港、マレーシア
  • 調査期間は 2016 年 10 月 27 日~ 11 月 17 日
  • 回答者は、中堅企業 (従業員数が 250 ~ 500 人) から大企業 (同 500 人以上) までの意思決定者または組織へのインフルエンサー
  • 回答者数は、日本企業の 115 人を含む 1494 人
  • 対面または電話によるインタビュー、およびオンラインによって回答を入手

ビジネスの面でアジアの競合企業に先行される懸念も

日本は「デジタル トランスフォーメーション後進国」――。マイクロソフトが実施した調査から、このような状況が浮き彫りになりました。今回の調査で「デジタル トランスフォーメーションが重要」とした回答者は、アジア全体の平均が 80% であるのに対して、日本ではわずか 50% にとどまっていたのです。

IoT (モノのインターネット) や AI (人工知能)、クラウドなどの最新テクノロジを活用して製品・サービスやビジネス モデルを変革することは、激変する経済環境の中で勝ち残るための必要条件になろうとしています。この連載でも言及したように、米国の大手調査会社である IDC でも「数年以内にデジタル トランスフォーメーションを実施しないグローバル企業は、競争に生き残ることは困難」だと指摘しています。

このため、欧米では現在、国や巨大な企業グループを挙げてデジタル トランスフォーメーションへ取り組むプロジェクトが進展しています。ドイツが産官学の協力の下で推進する「インダストリー 4.0」や米 General Electric (GE) がグループを挙げて取り組んでいる「インダストリアル・インターネット」が、この好例です。

もちろん、アジアでも先進的な企業はデジタル トランスフォーメーションに取り組み始めています。今回の調査では、「デジタル トランスフォーメーションの準備ができている」という回答者はアジア全体で 27.4%、日本が 15.7%。デジタル トランスフォーメーションへの準備でも、日本はアジアの中で後進国だと位置付けられるのです。デジタル トランスフォーメーションで後れをとっているということは、将来的に日本企業がビジネスの面でもアジアの競合企業に先を越されてしまう可能性が高いことを示唆しています。

第 4 次産業革命の実体はデジタル変革

産業界の歴史を振り返ると、いつの時代でも大きな収益を上げる事業領域は絶えず変化してきています。現在、かつて世界中を席巻した日本の電機メーカーの多くが苦境に立たされていることからも分かるように、製品・サービスやビジネス モデルの変革なくして、勝ち組にとどまることは不可能なのです。

例えば、米国の代表的な株価指数であるダウ平均株価において 1884 年の公表以来、唯一名を連ねている GE は、経営環境の変化に合わせて主力ビジネスを変え続けています。製造業として創業した同社は紆余曲折を経て、2000 年代には金融事業を主力ビジネスとしていましたが、2015 年には金融事業からもほぼ撤退し、製造業へと回帰する動きを見せています。経営環境の変化の早い時期には勝ち組と目された企業が、わずか 1 ~ 2 年の間に負け組となってしまうことさえあります。

経営環境が大きく変化する背景には、新しいテクノロジの存在があります。過去の産業革命でも、新たなテクノロジが経営環境を一変させています。第 1 次産業革命では蒸気機関が、第 2 次産業革命では電力による電動機と石油による内燃機関が、第 3 次産業革命ではコンピュータがそれぞれキー テクノロジとなって、新たなビジネスを創出しています。IoT や AI、クラウドなどのデジタル テクノロジによって、新たな製品・サービスやビジネス モデルが次々と生まれている現在は、後から振り返ると第 4 次産業革命と位置付けられることになるでしょう。

デジタル テクノロジでビジネスを変革することこそが、第 4 次産業革命の実体なのです。製造業に回帰する GE も、デジタル テクノロジの活用によって単にものづくりの生産性を向上させるだけでなく、新たなサービスやビジネス モデルを創出することを目指しています。

日本企業がデジタル変革に及び腰な理由とは?

ここで、今回の調査結果から、日本企業がデジタル トランスフォーメーションに及び腰である理由を考えてみましょう。

デジタル トランスフォーメーションの注力分野として上位に来たのは、アジア全体では 1 位が「リモート ワーク環境」、2 位が「製品・サービスのパーソナライズ化」、3 位が「テクノロジを活用したコラボレーション」となりました。日本企業に限ると 1 位が「ガバナンス・プロセス・管理手法の確立」、2 位が同率で「製品・サービスのパーソナライズ化」と「デジタル チャネルによる新たな販売方法」という結果です。日本企業はプロセスを実践する現場主導の改善を得意としているので「ガバナンス・プロセス・管理手法の確立」が首位となっていると考えられますが、実はこれがデジタル トランスフォーメーションへの取り組みを遅らせる結果になっている可能性があります。

既存の業務プロセスの効率化や自動化を目的とする従来のエンタープライズ システムでは、ガバナンスやプロセスを管理・維持することが重要な課題でした。しかし、新しいサービスやビジネス モデルを創出することを目的としたデジタル トランスフォーメーションでは、そもそも既存のプロセスは存在しませんし、プロセスがなければガバナンスをどのように利かせるのかを議論できません。つまり、「プロセス・ガバナンス・管理手法を確立するためにテクノロジを活用する」という姿勢では、デジタル トランスフォーメーションへの取り組みが遅れることになるのです。

デジタル トランスフォーメーションに限ったわけではありませんが、新たな事業を立ち上げる際には試行錯誤が欠かせません。小さな範囲で試行して、うまくいけば拡大し、ダメなら仕切り直す――このような取り組みが求められます。これに沿って、テクノロジの活用方法も変えることが必要です。

デジタル変革では「アジャイル型」の開発手法が必要に

伝統的なエンタープライズ システムの開発手法では、一般的に開発工程が滝のように一方的に流れる「ウォーターフォール型」を採用していました。しかし、デジタル トランスフォーメーションのシステムの開発手法では、仕様や設計の変更があるという前提に立ち、おおよその仕様だけで手戻りしながら完成を目指す「アジャイル型」の方が適しています。そして何よりも重要なことは、撤退や規模の拡大・縮小を容易に実現できるようにしておくことです。

オンプレミス (社内運用) のシステムでは、こうした要件を満たすことが困難でした。しかし、クラウドの登場で状況は一変しました。クラウドを利用すれば、必要なリソースを短期間で調達できるからです。システムの規模を容易に拡大・縮小することが可能である上に、万が一、新事業が失敗した場合にはサービスの利用を停止すればよいのです。リソースを使った分だけ課金される従量料金制なので、余剰なシステムを抱える必要もありません。

実際、クラウドを活用して、短期間で革新的なサービスを立ち上げ、大きなビジネスに成長させる企業も登場しています。この好例は、FinTech の事例として頻繁に取り上げられるテメノス社のサービスに見ることができます。スイス・ジュネーブに本社を置く同社は、金融機関向けに特化した ICT サービス会社。マイクロソフトのクラウドを利用して、携帯電話やタブレットから利用できるモバイル バンキングのシステム基盤を SaaS (Software as a Service) として提供しています。金融機関がこれを利用すれば近隣に店舗がなく金融機関と取引できない人々に対して、銀行サービスを提供することが可能になります。フィリピンに拠点を置く全国協同組合連合 (NATCOO) やフィリピン信用組合連盟 (PFCCO)、ケニアの銀行である M-Shwari など世界中の金融機関が、テメノスの SaaS を利用して銀行サービスを提供。わずか 2 年間で合計 1000 万人の人々が新たに銀行サービスを利用できるようになったといいます。

現在は、システム基盤だけでなく、開発に高度な専門知識が要求されるようなアプリケーションもクラウド サービスとして提供されています。例えば、マイクロソフトのクラウド サービスでは、遠隔監視や予兆保守など IoT に関するアプリケーションを利用可能な状態で提供する「IoT Suite」、最先端の AI 技術である機械学習をすぐに利用できる「Azure Machine Learning」、音声や画像、自然言語などを認知する「Cognitive Services」などを提供しています。これらを利用すれば、アプリケーションの開発に時間を割くことなく、高度な機能を備えた新サービスを立ち上げることが可能になります。

プロセスやガバナンスの検討よりも「手を動かす」ことが大切

ただし、低コスト・短期間で高度なサービスを立ち上げられる環境が整備されたからといって、デジタル トランスフォーメーションの成功が約束されたわけではありません。デジタル トランスフォーメーションに取り組もうと検討しているものの、どこから手をつければよいのか分からない――こうした悩みを抱える企業が少なくないのが現実です。とりわけ、プロセスやガバナンスを重視する日本では、こうした悩みを抱える企業が多い傾向にあります。

デジタル トランスフォーメーションを推進する際に、まず重要なことは自社の強みを見極めて「あるべき姿」や「ビジョン」を掲げることです。その上で、そこへ向けたロードマップを描かなければなりません。実は、こうした資質を持つ人材が不足していることが世界的に大きな課題となっています。さらに、自社が提供するサービスにおいて最新テクノロジを駆使する能力も求められます (ICT 業界では、こうしたスキルを「IT ケーパビリティ」と呼んでいます)。今回の調査でも、デジタル トランスフォーメーションの阻害要因として、アジア全体の平均では「サイバー脅威のセキュリティ」と同率で「デジタル スキルを持つワーク フォースの欠如」が首位となっています。

こうしたスキルを備えた人材は一朝一夕には育成できません。であれば、外部の力を借りることを考えるべきです。新たなサービスあるいはビジネス モデルでは、先行者利益が極めて大きいからです。そして、デジタル トランスフォーメーションを推進するには、ビジョンやビジネス シナリオの策定が重要となります。こうした要請に応えるために、日本マイクロソフトでは「デジタル アドバイザリー サービス」を提供しています。このサービスは、専門的な知識と経験を持ったデジタル アドバイザーが、お客様とともに、デジタル トランスフォーメーションに向けたビジョンと計画を策定し、具現化までをサポートするサービスです。「デザイン思考」という手法を使って、お客様のデジタル ビジョンを見出すところから取り組み、どこにどのような課題やニーズがあるのかを掘り起こして具現化するまでをご支援しています。

クラウドが広く浸透した現在、どこの企業でも革新的なアイデアを創出できれば、短期間で事業化にこぎ着けることが可能です。先行者利益が大きいので、いち早く事業化することが重要な課題となります。デジタル トランスフォーメーションに取り組む際には、プロセスやガバナンスを慎重に検討するよりも、まずは「手を動かす」ことが何よりも大切なのです。

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